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生霊
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生霊 1

僕は自分が取り立てて特別な人間だなんて思った事は一度も無い。
世間一般の高校二年生が経験する出来事は一通りあった人生だった。
世の中には数奇な運命を辿る人も居るけど、そんなのは僕には無関係で、多分この先の人生も、今までと変わる事無く平穏の内に過ぎて行くのだろうと思っていた。

そう、その日までは…。

「佐藤弘樹って子、居るかしら?」
我が校でも一位二位を争う美少女と名高い鈴木彩華先輩が僕ら二年生の教室を訪れた時は教室中がざわめいた。
その鈴木先輩の口から僕の名前が出た時、僕は耳を疑った。
僕は前述の如く平凡を絵に描いたような人間だ。
本来であれば接点が無いはずだ。
僕自身、鈴木先輩のような有名人が自分の元を尋ねて来る心当たりが全く無い。
「あなたが佐藤君?」
「はい…そうですけど…」
彼女は言い放った。
「あなた、責任取ってくれるんでしょうね?」
「は…?」
彼女の言葉に周囲のざわめきが大きくなる。
「あ…あの…何の話でしょうか?僕にはサッパリ…」
「とぼけるつもり?ここひと月、毎晩に渡って私の体を弄んでおいて…」
「……」
身に覚えが無かった。
周囲は恐慌状態に陥っている。
こんな所ではまともな話し合いは不可能という事で僕は先輩を連れて教室を出た。

やって来た所は屋上だった。
ここなら人は居ない。
そこで僕は先輩の言葉の真意を聞いた。

それは生き霊であった。

先輩によると、初めて“それ”が先輩の前に姿を現したのは今からひと月ほど前の事だという。
“それ”は深夜、寝ている先輩の布団に潜り込んで来た。
それがこの世の物ならざる存在である事はすぐに解ったという。
先輩は恐怖で声を上げる事も出来なかった。
それから“それ”は毎晩現れた。
最初の内は添い寝するだけだった。
だが日を重ねるにつれ、次第に体に触れて来るようになり、更にそれはエスカレートしていった。
そして初出現から一週間後の夜、ついに先輩と“それ”は“そういう事”になってしまった。
先輩の意思ではなかった。
これはいけないと思い、先輩は“詳しくは言えないが絶対に100%信用できる人”に相談した。
“その人”が言うには「それはあなたに想いを寄せる人が“生き霊”となって毎晩あなたの元へ通っているのだ」との事であった。
先輩はその生き霊の主を是非とも知りたいと“その人”に頼み込み、調べの結果、生き霊の主を僕だと突き止めた。

以上ここまで、先輩の話である。

何という事だろう。
話を聞いた僕は愕然とした。
自分でも知らない間に生き霊となって、先輩に“そんな事”をしていただなんて…全く気付かなかった。
何せ記憶が無いのだから仕方が無い。
しかし先輩によると、生き霊として行動している間の事は記憶として残らないのだという。
校内一の美少女、鈴木先輩と“そういう事”をしておきながら記憶が全く無いなんて…なんだか物凄い損した気分だ。
「先輩!本当すいませんでした!」
とりあえず僕は謝った。
「良いのよ。生き霊は本人の意思ではどうにもならない物だからね。だけど君の生き霊がもう私の所に出ないように、協力してもらえるかしら?」
「はい!僕は一体何をしたら良いんですか?教えてください。何でもします」
「話が早くて助かるわ。放課後…いえ、今から私の家に来てもらえる?」
「喜んで!…じゃない、解りました」
…という訳で僕らは早退して鈴木家へと向かった。

「こ…これが…鈴木先輩の…その…お家…なんですか…?」
「そうよ。驚いた?」
先輩の家は赤かった。
壁の色がほんのり赤っぽい…とかじゃない。
屋根も、壁も、塀も…驚いた事には庭の物干しや玄関前の飛び石まで…全てが血のような真っ赤な色だった。
閑静な住宅街の中、それは異彩を放っていた。
いや、むしろそこだけが異次元だった。
「…とても個性的なお家ですね」
「はっきり言いなさいよ。気持ち悪いって」
「す…すいません…」
「どうして謝るのよ」
「いや…その…」
「…まあ良いわ。人からどう思われようと構わない。これは悪魔から家を守るために必要な事なの」
「悪魔…?」
「そうよ。我が家に取り憑いた恐ろしい悪魔…今はもう居ないけれど、思い出しただけでも背筋が冷たくなるわ…」
そして先輩は聞かせてくれた。
恐ろしい悪魔の話を…。

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