PiPi's World 投稿小説

密室にて
その他リレー小説 - サイコ

の最初へ
 7
 9
の最後へ

密室にて 9

俺を押して白い廊下を進みながら、驚いたことに女は泣いているような声で言った。
「みんなおかしくなってしまった。少しずつ少しずつみんなが殺人鬼になって臭い。魚が腐っているような」
ブツ、ブツブツブツ・・・
小さな声が聞こえた。かすれたラジオの音のような、爺さんのしわがれた声のような。
(−誰かが他にいる?)
おれは自分の腹を見た。包帯を厚く巻かれた下から血が滲み異臭が立ち上る。腐った魚の臭い。
ラジオの周波数がピンと合うように、腹からの呟き声が不意に明瞭になる。
「この匂いを消すのには人の血肉が一番だ」
ああ、みんなこの声を聞いたのか。車椅子がとまる。後ろの人間が呟く。「・・・あなたも、臭くなってきた。」臭いだって?じゃあ消さなきゃいけない。うん。酷い匂いだ、確かに。――魚が腐った匂いが――

『この匂いを消すには人の血肉が1番だ。』腹の声と俺の声が重なる。新鮮なやつ程良く効くんだ。
滑らかに車椅子が動く臭い臭い臭いぐるぐる車輪が回る。車輪の真ん中に瞳孔が見えてその瞳孔は大きくなったり小さくなったり魚の目だ。淀んでいる。それは廊下の白い天井、蛍光灯の光に照らされて匂いを放つ。浜に打ち上げられたイルカの群助けられない象井戸に落ちたサソリ。サソリは言いました-

俺は叫び声を上げて包帯の上から足の切断面を握りつぶした。自分の頭を横切っていく死の映像に耐えられなかった。体がピンと張るような痛みにまた悲鳴を上げ、肩で息をする。呼吸が落ち着いていくと共に嫌な匂いも薄らいでいった。
なんだったんだ今の映像は・・・。いろんな物が一気に混ざり、溶けて頭に流れ込む感覚。「臭くなくなったから大丈夫、なのか?」俺は誰に言うでもなく呟く。「匂いは大丈夫・・・でも傷口が・・」女が答える。足の包帯を見ると赤い染みが出ていた。鈍い痛みもある。女は素早く治療道具をだし、処置に取り掛かった。直視していたら痛いので俺は周りを見渡す。相変わらず真っ白な廊下に規則正しく並んだ戸。そして俺の前、階段の上には屋上へ出られるドアが。いくらこの看護師が常識外れでも、俺が乗った車椅子を抱えて階段は無理だろう。
「俺は助かるのか?」
「無理。もうこれ以上の治療が出来ない」
治療具をばらばらと落としながら、女は断言して、立ち上がった。うつむいた顔に髪がバサリと垂れる。血と肉片と埃がこびりつき、ところどころ泥のように固まっている髪。
「何かに感染して死ぬ。その前に私に殺される」
待てコラ。女の手にはメスが握られている。匂いはしないのに、ただ狂ったのか!?女はメスを振り上げ、
「グアッ」
呻いたのは女だった。切り裂かれた白衣の前から腸が少し出て止まったかと思うと、それからまた花が開くようにたくさん出て垂れ下がった。

SNSでこの小説を紹介

サイコの他のリレー小説

こちらから小説を探す