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悪夢
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悪夢 8

「あの日…」
俺が、まるで言葉を教えられたばかりの子供のように繰り返した言葉を無視して、彼女はふたたびピアノに向き直った。
あの曲を弾きながら、彼女は言う。
俺に語りかけているのか?
それとも、自分に語りかけているのか?
「あなたは、オルゴールがほしいと言った…。この旋律を聴いていたかった…。いつまでも…」
曲はゆっくりと流れ、リズムは部屋を満たす。
ピアノの澄んだ音が俺の心に染みる。
悲しげな曲…。
いや、違う。
悲しさではない。
淋しげな、曲。
ふと目を閉じた。もう彼女に対する恐怖心は消えていた。心がひどくおだやかで、安らいでいる。
彼女はひたすらに曲を演奏し続けた。
感傷的。情緒的。センチメンタリズム。
どれもちがう。
メロディーがぼくに伝える感情は、言葉では言い表せないもの。
ぼくは、頭に浮かんだイメージを忠実に描いてみた。
……バレリーナ。
女の子が、曲にあわせて優雅なバレエを踊っている。
見覚えのあるコだ。
それはとても綺麗で、素晴らしくて、まさに感動的な美しさだった。
けれど、なにかがちがう。おかしい。
やがてぼくは、その違和感の原因に気付く。
なぜ、彼女は一人ぼっちで踊っている?
どこかのホール。彼女にはスポットライトが当てられている。どこかから流れる曲に身を任せて、彼女は一人、舞う。だけど彼女のまわりは真っ暗で、だれもいない。
だれもいない。
そんななかで、彼女は永遠と踊っている。
優雅な曲。
だが、淋しい曲。
唐突にぼくのイメージが、ある現実の記憶と重なった。


  ―――オルゴール――――

俺ははっと目を覚ました。
一瞬、記憶が混乱する。
ここは、どこだ?
日当たりのよい窓。だがそんな窓からの朝日をほとんど遮る本棚とデスク。薄暗い部屋。散らかった衣服やペットボトルなどのゴミ。
俺は、自分の部屋のベッドで眠っていた。
(全部、夢?)
そう考えたとき、俺ははっとした。これは、ついさっき夢の中でも考えたこと。そしてそのときは、全てが現実だった。
ということは、また、全ては現実?
だが、どこにも廃墟の姿などない。
やはり、夢。
…これも?
ひどく頭が痛む。鎮静剤を飲まなければ。
俺はベッドから立ち上がった。
その時…。
……………ポロン…………ポロン………………ポロン…ポロン………………………ポロン………………
…ひどくゆっくりだけど、またもぼくの耳に届いてきたのは、あの曲。
俺は、恐る恐る音のほうに目をやる。
恐い。振り向きたくない。なのに身体が、勝手に振り向く。
完全に後ろを向いた瞬間―――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 




 

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