悪夢 1
いつも汗だくで目が覚める。
ベッドから跳ね起きた俺は、恐怖で乱れた呼吸をゆっくり整えながら、枕元に置いてある精神安定剤を飲んだ。
また、あの夢だ。
ここのところ、常に俺を悩ませている悪夢。最近では眠るのが怖くて、精神科にかかっているくらいだ。
内容は覚えていない。ただ、とてつもなく恐ろしい夢だったことは覚えている。
自分の身体が崩壊していくような、恐怖の夢。
出来れば薬には頼りたくない。だけど飲まなければ、起きている時間さえも地獄だ。―せめて何か少しでも覚えていれば。俺は自分の境遇を呪う。何で俺はこんな夢をみるのだろう。
ほんのわずかな記憶を辿って思い出せるのは、なにか赤みがかった霧と、白いテーブルクロス。
それ以上糸を手繰ってみても、すでにその夢は忘却の彼方に消えてしまっている。
俺は台所に行って、水を一杯飲むことにした。
ガラス製のグラスに、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを注ぐ。コポコポと耳障りのいい音をたて、グラスに水が満ちていく。
瞬間、俺はひどく濃密なデジャ・ビュを覚えた。
コップに満ちていく水。
・・・森の中
小さな家
赤い絨毯
一人の女性
笑顔
白いテーブルクロス
暗闇
不安
鈍く光るモノ
誰かの叫び
視界を染める紅い色
―何だろう?この映像は。どこかでみたような気がする。「・・・うわっ!」コップから水が溢れていた。テーブルが水びたしだ。
ともかく水を飲み、気を落ち着かせる。
椅子に座って窓の外を見た。外は朝の太陽の光に満ちていて、幸福を題材に描かれた絵画のような風景を作り出している。
薄暗い、牢獄のような俺の部屋とは実に対象的だ。
それにしても…。俺は先刻の断片的な記憶を反芻する。…あれは、夢の記憶、だろうか?