悪夢 2
だが依然、夢の全貌が見えてこない。
ふうっと一つため息をついて、俺は考えることを止めた。いくら考えてみてもなにも見つからない。これは精神医学の分野であって、門外漢の俺がいくら考えても無駄だろう。
パソコンを起動させ、俺はそれにむかう。今日中に完成させなければならない原稿がいくつかある。いつまでも夢のことなんかを考えている暇はない。
だが、キーボードを何度か叩いたとき、またも先刻と同じデジャ・ビュが俺を襲った。
今度は、頭が割れそうなほど激しい頭痛をともなって。
―ズキンッ
柔らかな光
響く声
『―。―――?』
俺に向かって伸ばされる腕
『――?』
優しげな瞳
冷たい雰囲気
・・・・まただ。さっきとはまた違う物が見えた。
あの悪夢を見るようになってからもうしばらく立つが、こんなものを見るのは初めてだ。
頭痛の痛みで頭がふらつく。デスク用の不安定な椅子に座っているのも辛くて、俺はソファに倒れ込んだ。
そのとき、三度目のデジャ・ビュが頭を過ぎった。最も明瞭で、最も強力なデジャ・ビュだった。
……オルゴールの曲……
優しく儚げな旋律
その音に被さる声
『ねえ。行きましょう?』
窓の白いカーテンが揺れる
伸ばされる腕
『もう頑張らなくて良いのよ?』
優しげな瞳の女性
雰囲気は冷たい
安堵と不安
決めなければ・・・・
―今度はかなり具体的な物がみえた。俺は何か決断を迫られているようだ。しかし、これだけでは解らない。
だが俺は、ある手応えを得ていた。夢の正体に関する手応え。
オルゴール。
落ち着いた曲調の、どこか悲しげな曲。これはデジャ・ビュではない、確かな聞き覚えがあった。