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後ろの人
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後ろの人 7


私達はお互いの顔を確かめあって、同時に水の流れに体を預ける。―ゴポゴポゴポ・・・流されていく。上も下も解らない。私のヘアピンが流されていく。不思議と苦しいとか嫌だとは思わなかった。ただ妹の手を離さないように強く握る。・・・・こうなるべきだったのに。あの日私は逃げた。妹はどんなに心ぼそかっただろう。私はこれで良かったと思ってる。後悔なんてしていない。私達はどこまでも流されていった。私は段々と意識が薄れていった。満ちたりた幸福感に包まれながら。


――――・・・・・・春の暖かなひざし。公園のベンチに座る老婦人。その表情は穏やかで、砂場で遊ぶどこかの家の子供を眺めている。―夫に先立たれ、子宝にも恵まれず暮らしも豊かとは言えなかったわ。でも私は幸せよ。老婦人は目の前の噴水を見つめる。1つの問題を除けば・・・・・。噴水には私が写る。その後ろに幼い姉妹。黄色のワンピースにショートカットの姉と、水色のワンピースにおさげの妹。『ねえ。遊びに行こうよ。』二人の声が重なる。
老婦人は少し首をかしげ、目を細めて水面に顔を近づけた。姉妹は手をつなぎ、『ねえ。遊びに行こうよ。』と水音のリズムにあわせるように歌っていた。『・・・イを消しに行こうよ』『・・・ザイを消しに行こうよ』
老婦人はますます揺れる水面に顔を近づけ、中の子どもたちを良く見ようとした。水にうつる自分の顔の後ろに、その子たちは立っていた。・・・うんと水面に近づいているのに、それなら反射している自分の顔か噴水の中の様子が見えなきゃいけないのに、なんでジブンノウシロに姉妹が立っているのが見えるんだろう?
老婦人は、水面に写る姉妹を見つめる。『・・・存在を消しに行こうよ。』優しげな瞳に陰りが増す。――嗚呼、思い出したわ。忘れていたかったのだけれども。私には子供が居たのよ。それも女の子が二人も。でも、あの頃はもうどうにもならなくてね。だから私は言ったのよ――『“川で好きなだけ遊んでおいで”・・・そう言ってくれたよね?』お母さん。どうして迎えに来てくれないの。私達ずっと待ってるのに。
ずっと遊んでいるうちに私たち。ずっと。日が暮れたの。それから月が出て月がしまわれて太陽が上がってものすごい勢いで。日が暮れて。日が差して。いつの間にかあたしたちの手から骨が突き出したの臭くて臭くて蛆虫がたかって。でも私たち遊んでたわ。ずっと遊んでた。でももうやめることにしたの。ふたを、開けることにしたの、臭い、くさい、蓋を。私たちみたいな人がいっぱい閉じ込められている、蓋を。

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