後ろの人 2
次の日から妹の姿は見なくなった。
だけど私は、彼女の言葉が頭から離れない。
「あいつらが…とりにくるよ…」
『なにを』とりにくるのか。声が小さすぎて聞き取れなかった。
あいつらがとりにくる。
あいつらってだれ?
いくら悩んでもわからなかった。
それにしても、なぜ私はあの子が怖くなかったのだろう。
ある日、ベッドに寝転がりながら例によって彼女の最後の言葉について考えているとき、ふとそんな疑問が頭をよぎった。
やっぱり妹だから?
でも幽霊だ。もっと怖がっていい。
その必要がなかったから?
…必要がない?
「あいつらが……イをとりにくるよ…」
そのとき、頭に蘇った妹の最後の言葉が、いままでよりはっきり聞こえた気がした。曖昧だったところが、少し聞き取れたのだ。
「え!?」
慌ててもう一度反芻してみる。
「あいつらが…とりにくるよ…」
だがそれは一瞬で、結局また忘却のかなたへ飛んでいってしまった。
「わぁっかんないなぁ!あのこなにが伝えたかったんだろ?」
ベッドに倒れ込む。
鏡の中に映ったあの子の顔を思い返す。おさげの髪に、きりっとした眉毛。
いつものあの子の恰好だ。
亡くなった人がまだ生きてる人に伝えたいことって、なに?
もうすぐ私が死ぬとか?でもなんだかしっくりこない。
ていうかそもそも、あの子、いつ亡くなったんだっけ?
ええと、確か…。
私は普通の枕を抱き枕のように抱きながら、ベッドの上をゴロゴロして考えた。
だけど、ふとあることに気付いて私は体を起こす。
驚愕と、恐怖で。
「あいつらが…ザイをとりにくるよ」
頭を過ぎる妹の声。
だがこれは、妹の声じゃない。
なぜなら―
私には、はなから妹なんて、
いないから。
冷や汗が流れる。
なんで私はそんなふうに思い込んでいた?
私は一人っ子。姉妹なんていたことない。
でも、私はあの子を妹だと無意識に信じて疑わなかった。
なぜ?
「あいつらが…ンザイをとりにくるよ…」
頭を過ぎる何者かの声。
違う。妹はいた。
間違っているのは記憶のほうだ。
思い出から、妹が消えてしまっているのだ。
確かにいたのに。
まるで、存在していなかったかのように…。
そのとき、靄が晴れるように頭の中でつかえていた言葉がはっきり蘇った。
「あいつらが、存在を盗りにくるよ」
その瞬間、私は