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2012年のサムライ達
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2012年のサムライ達 1

これは幕末期、幕府軍が薩長軍に勝利し、未だ江戸幕府が存続し続けているパラレルワールドの物語である……。


「…はい、皆さん。今日も引き続き近現代の我が国の歩みについて勉強して行きましょうね。昨日までの内容は覚えていますか?」
ここはどこにでもあるような普通の中学校。
しかし良く見ると普通の授業風景の中に、いくつか異常な点を見る事が出来る。
まず教壇に立つ壮年の男性教師の腰には短刀が下がっている(戦前の海軍将校のように革ベルトで短刀を吊り下げている)。この教師はこの世界の日本において帯刀を許されている身分……士族だ。
さらに男子生徒の何人かは机の横に鞄と一緒に短刀をかけている。彼らもこの教師と同じ士族なのである。
「では教科書の125ページを……平一郎、読みなさい」
「先生、平一郎はインフルエンザで休みです」
「そうか…では光子」
「はい」
教師に指された少女が教科書を持って立ち上がる。
名前で呼ばれているのはフレンドリーな関係だからではなく、彼女達に苗字が無いからだ。この世界の日本では士族、または貴族以外は姓を持たない。
「…1868年、数年前よりフランス軍を範として軍の近代化を進めていた幕府軍は瞬く間に薩摩・長州・土佐・肥前を制圧、降伏させた。同年、元号が“萌治”と改まり、これをもって我が国の近代の幕開けとする見方が有力である。
その後、幕府は欧米列強に対抗し得る強大な近代国家建設を目指して中央集権化を推し進め、1871年、世襲の大名とその家臣団が統治する“藩”を廃し、新たに“州”を置いた。州は幕府によって任命された守護と登用試験によって身分を問わず選出された官吏達によって統治された。これは現在の州知事と州職員の前身とも言える制度である。
1871年、急速な近代化に反発した奥州諸藩の士族達が幕府に対して反旗を掲げ、東北戦争が勃発した。この結果、敗れた東北諸藩士達は蝦夷地に落ち延び、北海共和国を建国した。
1889年、大日本国憲法が発布され、日本はアジアで初めての近代国家となった。この憲法では『征夷大将軍は大日本国の国家元首にして司法権・立法権・行政権・陸海軍の統帥権を有す』とされた。
1894年、帝政ロシアの南下を警戒していた日本は、ロシアの同盟国であり南下の拠点となっていた北海共和国に在留邦人保護の名目で派兵し、札幌、函館、旭川などの主要都市を事実上占領した。これに対し北海共和国政府は帝政ロシアに救援を要請、ロシアはこれに応じ、日露戦争が開戦した。蝦夷地を主戦場に約一年間続いたこの戦争の結果、日本は辛くも勝利し、北海共和国の成立以来失っていた蝦夷地の領有権を回復、蝦夷地は北海府と改称された。この戦争は、近代で初めて有色人種が白色人種を破った戦争であり、白人の優越性が絶対であった当時の世界に大きな影響を与えた。さらに、敗戦と莫大な額の賠償金の支払が帝政ロシアの弱体化を招き、後の帝政崩壊に繋がっていった事を考えてみれば、この戦争の果たした歴史的意義は大きいと言える。


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