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クロス大陸戦記
その他リレー小説 - 戦争

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クロス大陸戦記 39

 木剣で受けようにも、そのものを撫で切りにされるのでは仕様がない。
 リダールの眼に不満とも慈愛ともとれる色が現れ、
「剣腕が同程度ならば、勝敗を決するのは、背に負うものの重さじゃよ」
 そして、初めてリダールが剣を構えた。
「見せい。お前の覚悟を…」
 先程を上回る圧迫感がゼスティンを包み込んだ。
 息をする事さえ困難な程の威圧が全身を襲う。
 歯を食い縛って、ともすれば震えそうになる足に力を込める。
 自分とて何も考えずに騎士を目指しているのではないのだ。
「…行きます!」
 ゼスティンは初めて自分から仕掛けた。
 8歩以上あった距離を瞬く間に詰めると、踊るような身のこなしでリダールの右手側の懐に入り込む。
「師匠まで謀(たばか)りよったか」
 リダールはゼスティンの動きに瞠目した。数ヵ月前に比べ、そしてリダールが予想していたよりも遥かに速い。
 左下段に構えた剣では右から迫るゼスティンに対処出来ない。初手の剣撃に力が入らないのだ。
 下段から上段へと剣を構え直す。愚手とはいえ、他に手はない。
 ゼスティンはその隙を見逃さない。
 構えた剣をフェイントに足払いを飛ばす。
 無論、この程度にかかるリダールではない。難なく飛び越えて、空振りに終わらせる。
「ぬうっ?」
 リダールが低く呻く。
 リダールの体が宙に浮き、身動きがとれない一瞬を狙って、ゼスティンは突きを放った。
「っああぁ!」
 刹那の内に、喉、鳩尾、顔面へと渾身の打突を繰り出す。
 狙いを外したり、力を抜く余裕は全く無かった。
 ガシィィッと何かが砕ける音が響き、リダールが吹き飛ばされた。
…しまった!?
 ゼスティンは我に還ってはっとなった。夢中だったとはいえ、間違いなく殺す気の攻撃だったからだ。
 そして、驚きに目を見開いた。
「やれやれ、とんだ隠し玉じゃの」
 リダールは何も無かったかの様に其処に立っていた。
 否、右手に下げた木剣の柄が割れかけていた。
 剣の身の部分で受け流す余裕が無かったのだろう。ゼスティンの打突を全て其処に受けてしのいだらしい。
「末恐ろしい奴じゃの。危ないところだったわい」
 リダールはそう言うと、ゼスティンの方へと木剣を放り投げた。
「勝負は一撃で決めろとは言ったが…必殺の一撃が三つも飛んでくるとは思わなんだわい」
 リダールは声を挙げて笑った。

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