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吹けよ暴風、荒れよ台風
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吹けよ暴風、荒れよ台風 14

 この問題はなかなか解決の糸口が見えなかったため、結局本庄季郎技師の提案で、一式陸攻の物を流用し、それを4つのエンジンナセルそれぞれに1本ずつ、4本の主脚を取り付けるといういささか間に合わせ的な方法で一応何とかした。主脚1本が出なくても着陸不能にならないために、主脚の左右にタイヤを1つずつ装備するダブルタイヤ化と主脚自体の強化、尾輪式ではなくDC-4同様の前車輪式にして前車輪もダブルタイヤとする事で一応の対策とされた。
 前車輪が出ない時は乗員が人力などで無理やり出しうるとしても、エンジンナセル後部にある主脚はそうはいかない。
 主脚が出ないトラブルを阻止する為に、緊急時には空包を利用して爆発させて無理やり主脚を蹴りだす非常装置の装備さえも検討されたが、これはさすがに安全上の理由から、航空行政を所管する逓信省の指導で却下されている。
 内装はおおむね当時の欧米旅客機に準じており、評判はまずまずだった。
 ただ、東京オリンピックに間に合わせる為とはいえ、技術の不足を主脚を4本用いる応急策で補わざるを得なかった事を、提案者の本庄技師はのちの著書で「提案したものの、いささか恥ずかしかった」と述べている。
 また、目玉商品となる大型旅客機にこのような応急策を使わないと作れない事を「恥ずかしい」として、三菱社内でもこの策への反発は多くあり、三菱やほかのメーカーに、大型機の降着装置の研究開発を加速させる動機付けにもなった。


 もちろん、彼もその一人である。
「なるほど……負けてはおれんな」
 恰幅の良い中年男性が、数多くの航空機の写真や航空関係の記事を広げた机の前で、どっしりと腕を組んで言った。
 彼と机を囲むように立つ数名の男たちの一人が問いかけた。
「大社長、どうされるのです?」
「三菱といい、大阪といい、実に野心的じゃないか。儂こそこんな事をやりたかったのだよ。見たまえ。これを」
 彼が示したのは、2枚の写真だった。軍の伝手で得たもので、一枚は十二試艦上戦闘機、もう一枚十三試艦上戦闘機を写したものだ。
「互いに真逆のコンセプト造りながら、海軍の過酷な要求にもちゃんと答えようとしている。保険のはずの十三試もそうだ。そして…これだ」
 大社長と呼ばれた男は、開いた雑誌を示した。三菱の広報記事の頁だった。
「MC-40ですね。まもなく量産開始という」
「我が国初の本格四発旅客機だ。世界の航空界は技術の進歩著しく、世界の空を結び、誰もが行き交える世の中へと向かっている。その流れにいち早く乗ってのけた。儂らより先に。爆撃機に改造しても活躍できるだろう」
「我が社でも海軍から大攻の開発を指示されていますが……」
「何とかものにしたいが、元がアメリカのDC-4Eだ。参考にはなるが、いかんせん図体が大きすぎる。MC-40を見るだけで、あれを基にしたのではだめだとわかってしまう。旅客機としても、大攻としても」
「では…?」
 訝しむ相手の前で、大社長と呼ばれた男はすっくと立ちあがった。
「設計をやり直す。海軍さんには悪いが、出直しだ。中島の名に懸けて。特に、降着装置とエンジンが肝だ」
「「「はい!!」」」
 大社長……中島飛行機の創業者にして社長の、中島知久平が動き出した。



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