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子守唄を添えて…
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子守唄を添えて… 10

「私は歌手になったわ…前から憧れていた…ね」
その表情が曇る。
「おかげで…私は家族の死に目にあえなかった。今でも思い出す…いえ、焼き付いているわ。
視界全てが紅に染まる。漂う生臭い匂い。血を踏む感触。芸術を思わせる、人としての形を失った家族達(オブジェ)」
その言葉が強烈過ぎて、何も言えなかった。正直に言うと圧倒された。
聞いただけで分かる残酷さ。卑劣さ。醜悪さ。
そのステージを鮮明に覚えている凛さんに俺は少し引いてしまった。
「引かないで」
注意された。
「仕方ないのよ…そういう場には慣れるよう教育されていたのだから…それが家族が惨殺された場でもね…」
なんて悲しいことだろうと思った。
動揺はしてるはず。しかし混乱は許されない。逃避もできず。だが認識はされる。
ありとあらゆる情報が、頭の中に送り込まれる。
いらない情報までが、鮮明に、よりはっきりと、1ピースも欠けずに埋め込まれる。
そんなだから、俺は…
「大変…すね…」
なんてありきたりな返事をしてしまった。
あ、めっちゃ睨まれた。怖っ。
「…その時、初めて歌手になったことを後悔したわ…結局、私は何もできなかったから」
「でも…仕方ないッスよ…」
「そうね…仕方ない。仕方ないのよ、本当に。苛立たしいほどに。
凄く悲しくて、凄く後悔しても仕方ないの一言で片付けられるの。そんなのはもっと悲しい…」
凛さんの目付きが変わった。
「私の同類を作りたくないの…。幼いうちに家族を無くすことが一番辛いと分かっているから…どうしてもダメなのよ…無意識に手が止まっちゃうの」
「それが…真実…ッスか…」
凛さんは静かに頷いた。
「こんなんじゃ、私はいつまで経っても半人前よねー…」
そして自嘲するようこう言った。
「これが真実なの。満足した…?」
「あ…はい。トラウマってゆーやつッスよね?」
「そうね…。何度もカウンセリングを受けようと思ったんだけど…なーんかそういうのは私に合いそうにないし♪」
そう言うと凛さんは立ち上がった。
「さってと…いきましょう、ハクちゃん♪仕事をしに…♪」
その表情はいつもと変わらない凛さんだったから、余計俺は悲しかった。
そして後日、俺達はある情報を手に入れた。

「ディー…ですか?」
「うむ。正確にはアルファベットのDじゃな」
俺達は陣野さんに呼ばれた。最初は凛さんだけだったのだが、俺も事情を知っているということでお呼ばれされたのだ。
「知らないです…。ハクちゃん知ってる?」
「いや…初耳ッス…」
「そうか…まぁ最近分かったのだが、こいつも我々と同じ裏の住人だ」
つまり…普通の人なら罪になることを平気でする人間。捕まらないのは必ず何かの背景…差し金があるからだ。


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