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子守唄を添えて…
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子守唄を添えて… 9

そんな自惚れはいいとして、本当の理由はと言うと…
「ハクちゃん、透明人間みたい…」
当事者がよく言う…。
凛さんが俺の顔が変形するまでボコボコにしたからだ。つまり今、俺の顔は包帯でグルグル巻きにされているのだ。
奇怪な目で見られるのは、こうも厳しいものとは…。もはや凛さんは他人のふりを通り越して、包帯ストーカーから逃げる可哀相な女性を演じている。元歌手のスキルをここで使わないで欲しい。
「凛さん…とりあえず家に帰らないッスか?」
「……………」
無視だし。
その沈黙は、黙って付いてらっしゃい…にも聞こえなくもないので、そうすることにした。
着いたのは小さな喫茶店。
カランと音をたててドアを開くと客は誰もおらず、老人が一人コーヒーカップを拭きながら店内に流れるジャズに耳を傾けていた。なかなかいい雰囲気である。
「こっち…」
俺と凛さんは奥のテーブルに座った。後で聞いた話によると、ここの店はこちらから注文しない限り、あちらは干渉しないらしい。こんなにいい店なのに、人が居ない理由はそこにあった。
「私は…歌手になりたかったの…」
「なったじゃないですか?」
「お黙り。話は最後まで聞きなさい。私が歌手になりたいと思っていたのは、ちょうど15歳くらいの頃よ」
凛さんはテーブルに肘をつき、目を細めながら話を続けた。
「神夜家ではね、小さい頃から暗殺の英才教育を受けるのよ。だから学校では普通の学生をして、家に帰ると夜遅くまで訓練。生まれながらにして職業が決まってるのよ」
話をする凛さんの顔は、今まで見たことない…哀愁の表情だった。
「ただ、学校にいる時間だけが自由だった。訓練も忘れて、友達と一緒に心から笑って…」
「ただの女の子だった…ってわけッスか」
「そう。それで…友達との会話によく出て来る歌手っていうのがね、どうしても気になって家にあったたった一台のテレビをこっそり見たのよ」
「怒られなかったんスか?」
「日頃の訓練のおかげでね。その時、初めて見た歌手は一言で言えば…きらびやか…かしら。凄く光って見えたのよ…それはもう後光があるって感じね」
「はぁ…。それからッスか?」
「えぇ…私はその時から歌手に憧れていたわ。でも私は既に将来が決まってある身…そこらへんの女の子より苦しい状況だったわ」
凛さんはコップの水を飲み干した後にこう言った。
「だから…逃げ出したの」
「逃げ…?」
「そう…それですぐに芸能会社に行ったわ」
「大丈夫だったんスか…?」
「なにがよ…?」
「いや…家出の少女を芸能会社が快く受け入れるとは思いませんが…?」
俺がそう言うと、ふふん…と凛さんはニヤけた。
「家出の少女だろうが、可愛い女の子は得をするのよ」
「……?」
「とりあえず!私は芸能人になったのよ」
「ハショりすぎッス…」
「うるさいわねぇ…可愛い女の子は得を…」
「はいはい。それは分かったッスから…次の話を…」

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