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子守唄を添えて…
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子守唄を添えて… 1

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ……!!」
ミスった。今日は思い返せば厄日だった。
朝は寝坊するし、昼はメシをぶちまけた。ついさっきだって、こんな満月で明るい夜だってのに転んじまった。

見つかってしまった。

「くっ…はぁっ…はぁっ…げほっ、げほっ……はぁっ…!!!!」
俺らの中ではアレに見つかったら死ぬと言われている。
甘かった。
見つかるはず無いと思っていた。
今夜は俺じゃないと一人で確信していた。
だけど…
さっきから近付いて来るこの『唄』はなんなんだよぉぉ!!!!
この唄はまるで母から子へと贈られる『子守唄』。
走っていても分かるくらい、綺麗な歌声だった。むしろこの歌声に踊らされて走っているのではないかと錯覚を感じるくらいだった。

そして…いつの間にか、唄は前方から聞こえてきた。

俺は胸から拳銃を出す。今はこれくらいしか身を守れる装備が無い。しかしアレの手前だと水鉄砲と何ら変わりはない。
俺はあまりにも無力だった。

歌声が止まった。
静かな夜に戻る。聞こえてくるのは俺の吐息の音と心臓の音。しかもアレは息を切らしてないと分かった途端、やたらやかましく聞こえる。
月光がアレを照らした。
その長い髪は月光を浴びて、艶めいている。
その姿は今まで誰かを待っていたかのごとく、腕を組み壁に寄り添っている。
その表情は目を瞑り、今夜の宴を楽しむかのように不敵に微笑んでいる。

そしてアレは…目を開いた。

ジッと俺を見つめる眼光は鋭く、その眼だけで俺は動けなくなった。
「よいしょ…ね、私の歌声どうだった?」
アレ…いや彼女は寄り添っていた壁から離れ、一歩また一歩と俺に近付いてきた。
「だんまり?もー…せっかく歌ったのに、これじゃガッカリね」
彼女は本当にガッカリしたのか肩を落とす動作をした。
逃げられない。
逃げられない。
逃げられない。
負のイメージが俺を覆う。これから来る死に身を強張らせていた。
「それで…もう分かってるはずよね?できれば大人しく殺させて欲しいんだけど…?」
彼女の表情は穏やかだった。
憎しみもなく、喜びもない…ただ俺を殺すことが、自分にとって当たり前のように俺を見つめる。
「死にたく…ない」
「ごめんなさい…それはできないわ」
精一杯振り絞って出した言葉だった。
カタカタと全身が震える。
きっとライオンを目の前にした仔鹿の心境だ。
絶対に覆すことができない食物連鎖。
俺と彼女は人間同士で対等なはずが、差は大きかった。
震える手で拳銃を構える。撃っても当たりそうにないが、撃たなきゃ当たる確率も、俺が生き残る確率も0パーセントなのだ。
「やめておきなさい。貴方がよっぽどの腕がない限り、私には当たらないわ」
彼女は俺の頼り無い腕をみて、呆れて言った。
俺は引き金を引いた。
バンッ…キン…バスッ…!!
俺が彼女に向けて撃った弾は、俺の足に当たっていた。
「ほらね?」

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