新八剣伝 2
「『なかった』って、つまり…」
『そう…。あろうことか、世界は今重なってしまったんだ』
「何だよそれ。ますますわかんねぇよ」
『わからぬのも無理からぬこと。だが今やもう時間がないのだ。話を聞いてくれ、いいな』
「…わかったよ」
嫌々ながらも、真一は話を促した。
突然現れた『精霊』とやらを、彼が全く疑わなかったと言えば嘘になる。どう考えようと信じられるはずがない。
だが脳に直接響いて聞こえるその声は、真一の中で、どこかあの『いじめられっこ』と重なった。やっと見つけた頼れるモノにすがりつくような、そんな必死さがあった。
不思議と拒めなかった。
『精霊』の話はこうだ。
二つの世界が重なったことで空間的にも繋がってしまい、結果として、ある限られた場所において行き来が可能になってしまった。
不幸にもそれを最初に発見し、領有しているのが、とある凶悪な侵略国家だった。
早速、真一達の住む世界に対して侵略行為を企て始めた。
しかしその情報がどこからか漏れたのをきっかけに、あらゆる国が一斉攻撃を開始した。
そして攻撃の間も真一達のいる世界の被害を懸念した偉い人が、その計画を内側、つまり真一側の世界から阻止するために、あるモノを送った。
それが、今まさに真一に語りかけている『精霊』なのであった。
「とまあこんな感じか?」
『ああ問題ない』
駆け足であったが、とりあえずは真一にも概ねの現状は把握できた。
『精霊』である赤い玉はさらに続けようとするが…
『ただ付け加えるなら……ち、間に合わなかったか…!』
『精霊』の声が終わらぬうちに、真一の前方に人型の影が現れた。
「見たこともねぇ反応があると思って来てみりゃぁ…。随分おもしろそうなオモチャ持ってるじゃんか…」
そう言うと漆黒の影に似た者は、薄気味悪くヒヒヒと笑った。
「お、おい…。何だよこいつはっ!」
『おそらく以前から潜り込んでいた奴だろう。しかしこれ程早く見つかるとはな…』
それまで微動だにせずにたっていた影が僅かに揺らめく。
「ン〜、やっぱオモチャの方だけが『俺等んトコ』から来た見てぇだな。おい、そこのガキぃ…。オレにもソイツを見せてくれよ」
足音、布ずれ。一切の音なく、あたかも浮遊しているかのごとく『影』が近づいてくる。
「オイオイ…。マズいんじゃないか、この状況は…!」
『…そのようだな』
「冷静やってる場合かよっ!サッサとアイツを何とかしてくれって…!」
『何とかしろ、か…』
精霊は黙ってしまった。