白々黒々世界 10
その様子を呆れたように見るしかない酉は、改めてこの少女が何者なのかを双六に問いただした。
「で、食い意地はったこのお姫様は誰ですか?飽食社会の日本じゃあめったに見られない娘だけど。」
「私の娘にたいして随分な言い方じゃないか。」
「娘?‥‥‥親父、今度は何処から拾ってきたんだよ。家族が増えることには異論はないけどさ。」
人参を食っている香燐をウサギみたいな奴だな〜と思いながら見る。その視線に気付いた香燐は警戒した目付きを向けた。
「自己紹介が遅れたな。俺は高崎秀一。みんなは俺のことを酉って呼んでるけど、本名はこっちだ。兄弟のなかでは一番年上だな。」
「高崎?」
ふと香燐は疑問に思った。
たしか隣にいる父親になった男の名前は焔魔双六だったはずだ。偽名だったのか?
「オレは香燐。女だ。」
「自己紹介って言えるのか、それ?
親父、そろそろ家に帰ろうか。」
酉は苦笑しながらも双六と香燐を乗せ、自宅へと向かった。
浜波町
港町らしい名前だが、実際は海に面していない内陸部にある。
目立った観光地や特産品もないが、かといって過疎化に悩まされてもいない中途半端な町だ。
そして今、香燐の目の前には町同様、平凡な家が‥‥‥
‥‥‥焼失していた。
「あ〜ぁ、見事に焼けちゃたね〜‥‥。天ぷら油が原因かな?」
我が家の残骸をみて、力なく笑うしかない宿主。彼の口から出た言葉はそれだけだった。
そこにあったのは、焼失して崩れた家の残骸とその後ろにある敷地の裏山だけだった。
目尻にうっすらと涙を浮かべる双六から酉は目線をそらして説明する。
「詳しいことは木霊に聞いてほしいけど、数日前の深夜に不審火で燃えちゃて‥‥‥‥。
みんなは咄嗟に外へ飛び出たから怪我はなかったけど、見てのとおり全焼。
すまんな、親父。」
「ローンもまだ払い終わってなかったんだけどな〜‥‥」
「オレは元々家なんかなかったから別に気にはしないけど、これからどうするの?」
炭化した柱を蹴飛ばしながら香燐は聞く。