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白々黒々世界
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白々黒々世界 9


白を基調としたワンピースだった。

メキシコ出国前、あまりにも汚い格好だったので、免税店で服を買ってもらったのだ。
男物の服でいいと香燐は言い張ったが、結局婦人服売場に連れていかれたのだった。

「それにしても、服を買う以前に、君は下着さえ穿いてなかったな。しかも、人前でそれを堂々と晒して‥‥‥‥恥ずかしいと思わないのか!」

「――――っ!き、着替えてる最中に試着室を開けたのはお前だ!!」

「それを言うなら、無理矢理僕を下着売場に連れ込んだ君も同罪だ。」



 真っ昼間から痴話喧嘩する二人はかなり目立ってるが、当の本人達は気付いていない。


 そこへ一台の小型トラックが彼らの前で止まった。

「親父迎えに来たぜ。」

窓から身を乗り出してきたのは、双六よりも少し若い二十代ぐらいの男性だった。
顔は少し土で汚れ、頭にはハチマキを巻いている姿はどこか笑いを誘ってくる。そして男は双六の隣にいる少女に気付いた。

「おいおい、もう一人いるなんて聞いてないぞ。荷台には野菜詰め込んでるし‥‥‥‥どうにかして荷台に乗ってもらうしかないか。」


「すまないね、酉。事前に連絡を取っておくべきだった。」

「親が子供に簡単に謝まるなよ。
で、結局この娘誰?
悪の組織に追われる薄幸少女か、記憶喪失に陥った天然ツンデレ少女だったらいいな〜。」

「二次元的な思考を現実の娘に当てはめないでくれ。はぁ〜、君が日頃、彼女ができないと嘆いていたが、今のままでは当分無理そうだな。」

酉と呼ばれた男に呆れた表情で会話する双六。
そんな二人から取り残された香燐の視線は、荷台に積まれた野菜に向けられていた。


 香燐が住んでいた場所では残飯の野菜しかなかったためか、調理されていない生の野菜を彼女は見たことがなかった。
基本的に野菜が嫌いな彼女である。だが、ちょうどお腹もすいていたので、誘われるように一本の人参を生のままかじってみた。

「あらら、人様の商品に躊躇なく噛り付いてきたよ、この娘!服装からしてお嬢様系かと思ってたけど、案外野性児か!?」

 男は驚いた様子を見せるものの、商品を勝手に食べた少女に対してそれ以上、何も非難しない。

というのも、



「‥‥‥や、野菜なのに、この人参甘い!!
あと、人を見かけで判断するなボケッ!」

 あまりにも美味しそうに生の人参を食べる少女にそんなことは言えなかったのかもしれない。

「俺が育てた無農薬野菜をそこらのスーパーで売られてる量産品と一緒にするな!野菜本来の味を引き出すのだ!」

と野菜にかける農家の情熱を少女にぶつける酉だったが、香燐は聞く素振りさえ見せず、よほど気に入ったのか二本目へと突入している。

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