白々黒々世界 8
「ありがとう。‥‥香燐、そこの電話で救急車呼んでおいて。30分ほどしか保たないと思うからさ。」
一方的な男との会話を終えた双六は香燐にそう指示を出すと、自分は顔についた血を洗面所で洗い出した。
「香燐、君は人を殺したことがあるかい。」
「双六は殺し屋なのか?」
聞かずにはいられなかった。足元で呻く男に刺さった刃物はすべて関節や神経にしており、指一本動かせない状態にさせたのだ。
そんな芸当ができる職種は裏社会にしかいない。
「‥‥‥似たようなものかな。利益を求めたことはないけどね。」
双六は鏡に映った自分自身に諭すように言った。
その後、香燐は病院に連絡すると、双六に連れられてそのホテルを後にした。
行き先は『日本』
オレの第二の故郷となる国だ。
技術大国『日本』
第二次世界大戦後、焦土と化した国土をめざましい経済発展とともに回復させたこの国は、今では世界でも有数の先進国となっている。
江戸時代末期までは鎖国制度により、外海からの文化が入らなかったこの国は、鎖国廃止後、他国の文化を多く取り入れ独特な文化を作り上げていった国だ。
しかし、他国の文化や環境は時に旅行者等、慣れていない者に牙を剥くことがある。
そして案の定、香燐は日本の文化に翻弄され、疲弊していた。
「‥‥‥もう疲れて動けない。」
「朝の通勤ラッシュは大変だったね。君、迷子になっちゃうし。」
「‥‥‥‥‥。」
香燐はグッタリと椅子にもたれかかった。
場所は駅近くのバス停。
季節は春。街路樹の桜には早くもつぼみが出来始めている。駅前の商店街では休日なのか客で賑わっていた。
朝早く空港に着いた二人はそのまま電車で移動しようとした。
だが、ここで問題が一つ発生してしまう。
電車に慣れない香燐は通勤ラッシュに巻き込まれ、双六と離れてしまったのだ。
孤立してしまった香燐はどうしていいかわからず、駅内を乗客が少なくなる昼前まで彷徨った。
結局、不審な行動をする香燐は駅員に捕まり、保護。呼び出されてやってきた双六につい先程引き渡されたのだ。
「服を買っておいてよかったね。会ったときのままの服だったら、ホームレスと間違われてたな。」
「でもこの服、目立ちすぎやしねぇか?」
「女の子らしくていいじゃないか。オレ口調も出来れば直してほしいけど、無理かな?」