白々黒々世界 6
「グルルルルッ」
「‥‥‥‥‥。」
咄嗟に手を引いて難を逃れた双六。視線をカリンに移すと、彼女の目はこう言っていた。
『次に手を出せば、今度は容赦なくフォークで刺す。』と‥‥‥‥
結局、ほとんどの料理をカリンが平らげる結果となってしまった。
「一応、僕が奢ってるんだから遠慮しないかな‥‥‥。」
「普通、家族同士は遠慮しないものだと思うけど?」
食事を終え、双六への警戒心もほとんど薄らいだ彼女は、彼と気軽に会話できるようになっていた。
「もう一度聞くけどさ、本当にオレを養子にする気?日本で探したほうが楽だろ。」
「君のような逸材は小さな島国には滅多にいないからね。」
「逸材ねぇ‥‥‥‥。それが本当ならオレはあんな場所で野垂れ死にそうにはならないと思うけど。」
香燐は自分の父親になった双六から、彼の家族について話を聞いていた。
国籍が日本であることは彼を見ていて大体予想が付いていた。だが、自分と同じ養子の兄弟が三人ほどいることには驚いた。
「男二人に香燐を入れて女二人。全員君と同じように拾ってきた子供達だ。」
「それでオレが四人目か‥‥‥もしかしてロリコン?」
半信半疑で聞いてくる香燐に双六は苦笑しながらも首を横に振る。
「そっちの趣味はないね。ちょっとした収集癖はあるけど、自分の子供達に手を出すことはないよ。」
「‥‥‥ちょっと怪しいな。」
ジロッと双六を睨み付けるが彼はふと通路側の扉を見ると、首を傾げた。
「‥‥‥‥?」
「おい、無視すんなよ。まだ、何でオレを養子に選んだのか聞いてないぞ。」
双六が話を逸らそう顔を背けたと思った香燐は声を上げる。
自分の容姿が優れているとはいえない。たいした才能もない。自分を選んだ理由を知りたかった‥‥
「なぁ、香燐。部屋の外に誰がいるかわかるか?」
「だから話を逸らすなって言ってるだろ!どうせ食事の片付けをしにきたホテルの従業員だろ。」
香燐が言うと同時に扉を叩く音が聞こた。すると先程食事を持ってきた従業員とは違ったが、荷台を押して入ってきた。
「片付けに来ましたが、よろしいでしょうか?」
「ど、どうも‥‥」
敬語を使われたことのない香燐はたどたどしく答えた。従業員は食べ終えた皿を次々と荷台に片付けていく。そこへ双六は気軽に話し掛けた。
「少し聞きたいことがあるのだが、いいかね?」
「はい、なんでしょうか?」
「君はいつからここに勤めているんだい?」
「はい、先月からここで働いています。お客様は以前にもお泊りになられたのですか?」
「いいや。人殺しを雇うようなホテルはあまり泊まりたくないよ。」