トリップ・ドリップ・ストリップ!? 6
しばらくの間その姿勢は続いた。やがてキルトは瞬きをして僕を解放。クレアさんには首を横に振った。
なんの事かは分からないけど、期待は外れた様だ。ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。
「イヌムラケイ」
呼ばれた方を向くと、クレアさんは机に大きな地図を開いていた。僕はその地図を覗き込む。
――ダメだ。地形が全く違う。大陸の数も、点線で分かれた国の数も。
「クレア、キルト――グランタリア――。イヌムラケイ―――?」
クレアさんは自分とキルトを指差し、地図上の区分けされた中でも大きめな国を指した。グランタリアというらしい。そして僕を指したという事は、僕が何処から来たのかを訊いているのだろう。
「日本」
二人の顔には疑問が見てとれた。当たり前だよ、違う世界なんだし。
クレアさんはもう一度地図そのものを指差した。が、僕は首を横に振る。
「キルト。――――?」
「……。――――」
はっ、とキルトは何かを思い付いたような顔をした。クレアさんに何かを告げるとテントを出ていってしまった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。言葉が通じない以上、身振り手振りでしか意志疎通が取れない。どうしよう……。
「……あ!」
何かで、言葉が通じない人でも簡単にコミュニケーションが取れる方法が紹介されていたのを見た記憶がある。それをやってみよう。
僕は周りを見回す。そして目についた、おそらくは練習用の木刀を手にした。
クレアさんは怪訝な表情をしている。ま、それは気にしない。
下は剥き出しの地面。そして手にした木刀で出鱈目な図を描いた。
「クレアさん」
僕が何かを伝えようとしたのを理解したクレアさん。地面に描かれた意味のない図を見てこう漏らした。
「クレ・ポ・グァ?」
こちらを向くクレアさん。僕にこれは何かと訊いているのは間違いない。
そう。僕がやりたかったのは、『これは何?』にあたる単語を聞き出すこと。物の名前が分かれば、それらをいくつか繋げるだけで最低限の会話が出来る。
「クレポグァ、クレポグァ……よし覚えた!」
「……?」
取り敢えず、適当に単語を覚えていこうか。
「クレポグァ?」
「……! インクァ」
なるほど。椅子は『インクァ』ね。
彼女は、いきなり自国語で『これは何?』と訊かれて驚いている様子。
「クレポグァ?」
「リリースァ」
んで、ベッドは『リリースァ』と。
いくつか名前を尋ねている内に、僕の意図を掴んだらしい。見える、クレアさんの頭上に電球が見えるよ!
「イヌムラケイ」
「あー。圭でいいですよ。ケ・イ」
いつまでもフルネームで呼ばれるのも何か落ち着かないし、何よりクレアさんともお近付きになりたい。