トリップ・ドリップ・ストリップ!? 3
彼女は構えを諸手に切り替え、僕の顎と喉仏の間へ斬り上げるように切っ先を延ばす。
多分、パハップス、プロバブリィ。僕の素性を尋ねているのだろう。相手から見れば誤魔化していると思われるに違いない。
「僕の名前は狗村圭! イヌムラ・ケイ!」
両手を上げて降参の意を表しつつ、右手で自分の顔を指差して名前を連呼する。通じると良いなぁ。判るかなぁ。
「――。――イヌムラ・ケイ――?」
「そうそう、僕の名前は狗村圭。貴方のお名前は?」
自分の名前を言い、差した指を彼女に向ける。
「……。クレア―ド・ヴ――・ハ――ザード――」
名前を尋ねたのを理解したのか、剣を収めつつこれまた凛とした声で名乗る。けれど――
「クレア……何?」
あまり聞き慣れない言語に長い名前。正直聞き取れなかった。
「クレア――」
「クレアでいい……と?」
少し笑みを浮かべながら頷いた。やっばぃ。笑顔ちょー可愛い。何これ美人で可愛いって反則じゃね?
「―――? ――!」
僕の格好を見て顔をしかめ、いきなり腕を掴んできた。
「ちょ、何? ドコ行くの!?」
手を引かれるまま僕は彼女に付いて行った。何度か抗議の声を上げたけど、言葉が通じないのは向こうも同じ。これ以上の意志疎通は無理と判断したのだろう。
先の笑顔は、それはもう魅力満載。剣を突き付けてきた時の恐い顔とは大違いだった。無為に傷つけられる心配もないみたいだ。
「ここは?」
連れられてきたのは野営キャンプ。その中でも明らかに別格のテント。いつの間にか背後に回った彼女に背中を押されて中へと促された。
このテントがある野営キャンプは、あの戦場の本陣。キャンプ内の様子は、それはもう飲めや歌えやのドンチャン騒ぎ。そこかしこから笑い声が聞こえてくる。多分、勝利したんだろう。
テント入り口向かって右側に簡易ベッド。左側にハンモックが掛かっている。中央には小さな机に丸椅子、奥には大小様々な武器を立てかける棚があった。
ベッドの上で散らかる本や書類(羊皮紙っぽい)を片付け、僕に座れと催促してきた。
何されるのかと不安になっていると、手の平をこちらに向けて何かを言ってきた。
此処で待っていろ、という事らしい。僕は頷いた。
だから、その笑顔ヤメてっ。眩しい、眩しすぎる!
彼女は外へと出向き、誰かを呼んだ。そして何らかの指示。テントに戻ってくると、僕の顔を覗き込んできた。
綺麗な蒼い海のような瞳。なんだろう、吸い込まれそうな感じ。
何を思ったのか篭手を外し、素手で僕の顔を、こう顎をクイッとする感じで持ち上げる。
「何を……?」
さらに僕の目を見つめる。ドキドキしてきたけど、何か違和感。