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飛人跳屍
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飛人跳屍 4

「ひえぇぇ〜!」
 若者が、情けない声をあげて、いっそう身体を縮める。
 声は情けないが、しかし動きはおそろしく迅速だった。しかも、身体を縮めたと思った次の瞬間には、両手で地面をはじき、両足を跳ね上げている。足先から道士の腹めがけて突っ込んだのだ。
 慌てたのは道士である。払子を振り下ろせば、己から腹を蹴られにゆくも同然。だが、一度渾身の内力を込めた技を急に引きもどすのは武芸の禁忌、込めた内力を己で被ってしまうことになる。
 とっさに、道士は払子はそのまま振り下ろしつつ、己は真上へ跳んだ。
 あっという間に頭を木の枝に打ちつけそうになったが、むろんそんな愚はおかさない。跳ぶ間にようやく空に円を描いて引きもどした払子を、今度は頭上に巻き上げて枝に絡み付け、身体を樹上に引き上げた。
 若者は見事にひっぱずされて、自分の蹴りの勢いで道士の連れてきた僵屍の群れへ突っ込んでいる。僵屍どもはバラバラと倒れ、若者のかぶっていた笠もとぶ。
 いや、笠はいいが、僵屍の額についていた札までもが宙に舞った!
「うわぁ! やっちまったよ、勘弁してくれぇ!」
 若者がまた悲鳴をあげる。
 僵屍どもが起き上がった。全身は硬直したままだが、動くのに全く不自由は見えないどころか、通常の人間より素早い。――それもそのはず、僵屍はそもそも、肉体の力で動くのではないのだから。
 ピョンピョン跳ねて向かってくる僵屍を、若者は、
「わっ! 来るんじゃない」
 喚きながら、一跳びで跳びこえた。むろん軽功をつかった身ごなしだが、それも二流三流ではないと見える。
 樹上の道士はちょっと感心して目を見開いたが、すぐに笑い出した。
 無理もない、若者は僵屍の扱いを知らぬようで、ひたすら逃げの一手だ。
 逃げながら、なおも喚く。
「どうしよう、俺は木に登った猿道士を取っ捕まえたいのに、こいつらが放してくれねえよ」

「では手伝ってやろう」
 不意に、新しい声。
道士はギクリとした。今まで何の気配も、ましてや人の姿もなかったのに、こいつはどこに潜んでいた?
 それ以上考える前に、
「浩雲、参上!」
 気合いもろとも流星よろしく斜めに流れた白い影が、僵屍の一体を蹴り飛ばした。
 閃電に似ているのと同時に、槍にも似た蹴りだ。蹴り飛ばされた僵屍は、突風にあおられた紙切れ同然にふっとばされた。
 バキッ!
 凄まじい音は、それのぶちあたった木が、そこから真っ二つに折れたのだ。
「よっしゃ、待ってろ猿道士」
 若者は新手に見向きもせず、樹上を睨んで背の長剣をようやく抜いた。
 道士は今まで気付かなかったが、鞘も金、剣把も金、なんともまばゆい剣である。
 同時になかなか名高い剣でもあった。
「金虹剣!」
 と、道士は呻いた。
「そのとおり」
 若者がにやりとする。
「この剣を知っているなら、あんた、俺の名も知ってるかもな」
 道士はうなづいた。
「きさまは、李散尽だ!」

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