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ソラ色の風に抱かれて
その他リレー小説 - ファンタジー

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ソラ色の風に抱かれて 1

 木製のドアの前に一人の女性が立っていた。
 彼女は長く美しい栗色の髪が乱れるのも構わず、激しくドアを叩く。それと同時に、やや怒気を孕んだ声を出し続けていた。
 彼女が何度それを続けようが、ドアの中に居る者からは何の応答もなかった。むしろ、中には誰もいない、という方がよっぽど合点がいく。しかし彼女は中には人がいるということを知っていた。
 彼女はドアを叩く手を止め、美しい深緑の瞳を細める。すると息を大きく吐き出し、それ以上に深く息を吸い込んだ。
「ソラッ! あんた、いい加減に起きなさい!!」
 彼女のこの日一番の大声が家中を駆け巡った。まさに百年の眠りをも覚ます強大な一撃と言っても過言ではない。
 すると、今まで屍の如く何の反応もなかった部屋から、ドタンバタンと音が聞こえてきた。耳を澄ますと低く小さな唸り声も聞こえる。恐らく部屋の主は、女性の声に驚いてベットから落ちたようだ。
 そしてゆっくりとドアが開いていった。
 
 そこには栗色の髪と深緑の瞳を持った――先程の女性をそのまま若返らせたような――可愛いらしい少女がいた。
 その深緑の瞳は差し込む朝陽をキラキラと反射させ……いや、少々涙ぐんでいるだけのようだ。ゆっくりと右手で鼻を摩っているので、先程ベットから落下したときに鼻をぶつけたらしい。
「お母さん……」
 少女は先程の女性に話しかけた。
「鼻が痛い……」
 お母さんと呼ばれた女性は深く溜め息をついた。呆れたように少女の頭を撫でる。
 お察しのとおり、このよく似た少女と女性は親子である。先程までの騒動は母が娘を起こす一般的な朝の一場面なのだ。いや、この親子の場合一般的とも言えないが。
「お母さん……」
 少女は続けて母親に話しかける。
「おはようございます……」
 と、ここで漸く朝の挨拶となった。
「はいはい、おはよう。朝食はもう出来てるわよ。顔洗ったら、早く食べなさい。今日は大切な日なんだから」
「はい……」
 母親の言葉に従い、フラフラと洗面台へと向かう眠そうな少女。この少女の名はソラ=アリアシード。
 ソラは、彼女にとって人生の分岐路とも言える大切な日の朝を、いつもと同じ様に過ごしていた。洗面台にたどり着くまでに、壁に頭を二回ぶつけるのも全く同じであった。
 ソラが朝食の席に着く頃には、母親のエリス=アリアシードと祖母のマリー=アリアシードは既に朝食を終えていた。
「今日もまたお寝坊かい? もうすぐ14歳になるのに、ソラはいつまでも変わらないねぇ」
 優しい笑みを浮かべながら、マリーはパンをほお張るソラにいった。
 ソラはパンをほお張ったまま、あうあう、と返事をして、その所作をエリスに怒られてしまう。
「こら、口に物入れたまま喋らないの。全く誰に似たのかしらね」
「それはキリに似たに違いないよ。ソラはキリの若い時によく似てるよ、朝に弱い所までね」

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