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ソラ色の風に抱かれて
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ソラ色の風に抱かれて 2

 
 今マリーが口にしたキリとはソラの父親のことで、王宮の第8騎士団に所属している。言わば単身赴任のようなもので、月に一、二回程しか家に帰って来ない。
 この父親が所属する第8騎士団とは非常に特殊な部隊なのだが、ここでの説明は省く。
 
「お父さんに似てるなんてなんか嫌だなぁ」
 ソラはパンを飲み込むと小さく呟いた。
「似てるのが嫌なら、朝くらい自分で起きなさい。毎朝起こすのも大変なんだからね!」
 エリスはソラの呟きを聞き逃さず、呆れた様子で話した。毎朝あの調子で起こすのは確かに大変だと思う。
「さて、ソラ。食べながらでいいので聞きなさい」
 マリーはそう言うと、微笑みを含んだ優しい顔から、真剣な面持ちへと変わった。
「ふぁ、ふぁい!」
 その様子に驚いて、またしてもパンを口にほお張ったまま返事をしてしまうソラ。母から、飲み込みなさい、と怒られてしまう。
 が、ソラは母からの注意がまるで耳に入らなかった。祖母であるマリーの真剣な様子が、視線や意識をマリーから離すことを許してくれないような気がした。
「貴女には今日、ドラゴンマスターの第一歩である生誕の儀を行って貰います」
 
ドラゴンマスター……それは、伝説の魔物であるドラゴンを意のままに操れる、言わばドラゴン遣いのことである。ドラゴンマスターの家系は世界に数える程しかないらしい。
 そしてドラゴンは太古の昔には自然界に野生のまま存在したと、世界各国の伝承や伝説に遺されているが、現在その個体は非常に少ない。何故なら、現在のドラゴンは独立した一種の生物ではなく、ドラゴンマスターの分身というべき存在だからだ。
 そしてドラゴンがドラゴンマスターの分身ということの秘密が、まさにこの生誕の儀にあるのだ。
 
「ソラ、生誕の儀で貴女は何をするか覚えてる?」
 エリスの問い掛けに、パンをオレンジジュースで流し込んだソラが答える。
「んーと、一年に一度だけ水が湧き出るアルミナの湖へ行って……なんだっけ?」
 マリーとエリスは同時に溜め息をつく。二人とも、このおっちょこちょいな娘が無事に儀式を成し遂げられるか、不安になった。
「あそこにあるドラゴンの卵を持って湖に入り一晩中祈りを捧げる。貴女の祈りがドラゴンに届けば、ドラゴンが生誕する……覚えたかい?」
 マリーはそういってソラの後ろの方を指差した。
 ソラが振り返るとそこには、三体のドラゴンが絡み合うように寄り添うやや大きめのオブジェがあった。その三体の頭が交差した上に嵌め込まれている石が、ドラゴンの卵である。
 ドラゴンの卵は、大きさはバレーボールくらい。手で撫でてみても、全く角が当たらないくらい綺麗な球状である。が、質感がいかにも石っぽくあり、ソラは昔から、これはただの丸い石、程度の認識しかしていなかった。
「でもおばあちゃん。これはただ真ん丸の大きな石にしか見えないよ?」
 ソラはドラゴンの卵をペチペチ叩いて、マリーに聞いてみた。

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