龍戦記〜龍の力を受けし者〜 9
シェリーの話題で彼等の緊張がほぐれた時だ、グルーが現われた。その姿は黒く蠢くゾンビ。地面を這いながら移動する様は、地獄の底から蘇って来た感じを漂わせている。
「一匹か…、ここは私に任せろ」
シェリーは黒いグローブを手に付けると、それを引っ張って気合いを入れる。
「お姉様、グルーは単独行動はしない、油断しないでくださいねぇ」
「私が美しさだけじゃないって事、思い知らせてやるぜ!!」
「お、シェリー再臨だな」
クリフの発言と同時に、シェリーは一気に間合いを詰め、グルーをおもいっきり殴りつけた。グルーの体に電撃がはしる。暫くすると煙りを出しながらグルーは消えていった。
「ちょろいね」
「お姉様、仲間が出てきましたよぉ」
腕を組んでいるシェリーの周りを、数十匹のグルーが囲む。殆どがゾンビタイプのノーマルグルーだったが、一匹だけ狼の姿をしたグルーがいた。
「ウルフグルーか…お姉様!!そいつは手強い、手助けしましょうか?」
「手出しは無用、私の実力見せてやるよ!!」
シェリーの体の周りを、電流がバチバチと音をたてて流れだす。電流が地面へとひろがると、地面から雷の柱が四本現われた。それはぐるぐると円を描く様に回り始める。
「焼き切れ!!ライトニングボール!!」
シェリーのかけ声と同時に、雷の柱は球体になって飛んでいく。球体が破裂し、森が一瞬明るくなると、ノーマルグルーは煙りになって消えた。残るのはウルフグルーのみ…
「確かに手強いみたいだな、でももう決着はついてる」
シェリーの口元が笑う。するとウルフグルーの周りを四本の槍が囲んだ。一本一本の槍が神々しい光を放っている。
「隠し魔法デススピア…、槍から“逃れようとした時”、お前はこの世から消える」
シェリーはウルフグルーを鼻で笑う。しかしウルフグルーはその場から全く動かない、挙げ句の果てには寝始めてしまった。
「デススピア…殺傷能力は最強クラスの魔法、“当たれば”死なぬ者はいないだろう、だがそれはあの四本の槍から逃げようとした時のみ効果がある、敵が動かない状況ではただ己の魔力を消費するのみ」
「さすがクリフさん物知りだねぇ、で、こういう悪状況の場合どうすんの?」
「普通は術を解いて、次の攻撃をするが…シェリーにそんな力はもう残っていない」
「それじゃ助けないと」
「俺がいく、シェリーはプライドが高いんだ、君に助けられるのは堪え難い仕打ちだと思うはず」
「分かった、でも言っとくけどウルフグルーは強いよ?マスターグルーの旗本って言われるぐらいなんだから」
「肝に銘じておこう」