龍戦記〜龍の力を受けし者〜 23
ラスティンがごちゃごちゃ言っている間に、オルクスは鉤爪につけられたロープを登っていった。
あっという間に頂上にいったオルクスを、ボーッと見上げるラスティン。彼は我にかえると、頂上に向けてクロスボウの引き金を引いた。鉤爪は物凄い勢いで天に登り、まるで龍のようだった…
「早く登れよ」
ボーッとしているラスティンにオルクスが声をかける。彼は鉤爪の固定を確認すると、ロープに特殊な棒を取り付ける。これも今回特別支給された機械で、棒の部分を握るだけで自動でロープを登れるという優れ物だ。
ラスティンが棒を握ると、その機械は音もなくロープを登っていく。下を眺めていると、みるみるうちに町は小さくなっていった。
「見るべきモノは外側だ…」
頂上で待っていたオルクスが、ラスティンの手を引っ張り引き上げる。そう、見るべきモノは外側だった…
「おうおう、何だよコイツはよぉ」
夜空は赤と黒の雲に覆われていた。地面はひび割れ、そこからマグマの様なものが顔を見せている。
「魔法だ」
「罪人の魔法で西国は消えたってぇ事なのか…」
「そういう事になる」
地平線の先まで赤く染まっていた。“西側の国が消されたらしい。もじ通りあとかたも残さず”…
「たった三日で…、三日で西国が落とされただと!!」
東国は動揺を隠せないでいた。長年続いた東西戦争が第三者の手により終止符を打ったのだ。その事実は軍部に緊張をはしらせる。
「国民にはこの事実を伏せておくように、余計な混乱を招きかねん」
東同盟軍の会議室がざわめいていた。狼狽える老人達の中に冷静な顔をした青年が一人混ざっている。彼は机を軽く数回叩くと、立ち上がった。
「お静かに王様方。西国が潰れたのには理由がある。悪魔の山から我等の国に軍が侵入してきた事だ。守りが手薄になった所に第三勢力からの不意打ちを受けた…、潰れるべくして潰れたのですよ」
青年は更に続ける。
「しかしこの事態は悪い事だけを生んだのではない。西国の軍は国が無くなった今もなお、我等の国土に駐屯している…、利用しない手はない」