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大光旅伝〜『龍』の章
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大光旅伝〜『龍』の章 2

諱(いみな)というのは、高い身分を持つ者の称号で、龍漸鏡は大軌(だいき)、龍心鏡は双魅(そうみ)と、彼等は二つの称号を持っているという事になる。
大抵は諱で呼ばれ、龍鏡の名はあまり呼ばれる事はない。彼等のように親子の場合も同じである。

「…まあ良いでしょう。大軌様、最近空を御覧になりましたか?」

双魅が本題とばかりに切り出す。大軌はちらりと双魅を見遣り、少々表情を引き締める。重要な話である事は、雰囲気で伺えた。
大軌は頷き、双魅は続ける。

「空は曇っています。…もう、一月になりますね。」
 
双魅の言葉に、特に表情を変える事もない大軌。
確かに彼女の言う通り、空は一ヶ月もの間曇っている。大軌はちょっとした天候の異常だろうと、特に気に留めた事もなかったのだが…

「…表へ出ましょう。丘へ。」

そう言うと双魅は腰を上げ、大軌に一礼すると部屋を出て行った。大軌は一人、訝しげに眉を潜めた。


屋敷を出て裏の山道を登ると、切り立った丘があった。この場所は国と、広がる海を眺める事のでき、大軌のお気に入りの場所でもある。
大軌が丘を登り終えると、いつの間に登ったのか、双魅が彼を待っていた。
 
「随分遅かったではありませんか?まだお若いのですから、もう少し機敏に動かれたらどうです?」

飄々とした双魅の言葉に、大軌は肩を竦ませて苦笑いする。
急な丘ではないにしろ、女性が、しかも着物姿で登ってくるというのは、双魅がただ者でない事を十二分に表しているだろう。
大軌は双魅に歩み寄り、二人で並んで国を眺める。栄えた国ではあるのだが、やはり何処か、暗い影を落としている感じは否めなかった。

「私達は…いえ、貴方は、この国を護らねばならないのですよ…。」

双魅は噛み締めるように、大軌に言い聞かせる。
ここは、舞国(ぶこく)と呼ばれる島国であり、またその中で8つの国に分かれていた。大軌達が居る場所も、そのうちの一つ、姫鷲(ひめわし)と呼ばれる国であった。

「貴方はこの国を覆う闇を、どう思われますか?」

双魅の唐突な問いに、大軌は特に答えるべき言葉はなかった。単なる天候の気まぐれとしか考えていなかったからである。
しかし、双魅の口振りから、そうではなく、もっと重い事態なのだと感じ取れた。
無表情で心を読み取りにくい大軌だが、そんな彼の心境を双魅は汲み取ったようで、軽く微笑んで見せ、続けた。
 
「この世界には、9つの“要素”があります。それは知っていますね。」

「火、水、天、地、光、闇、毒、心、そして神。」

双魅の問いに、今度はすぐに答える大軌。それを聞いて、双魅は頷く。

「そしてその“要素”を、“龍”が司っています。つまり、9匹の“龍”が居る訳です。」

「その“龍”が、何か?」

「…私の名には、“心”があります。私は、“心の要素を司る龍”の“繋”なのです。」

“繋”(つなぎ)この言葉に、大軌はピクリと反応する。話には聞いた事があった。この世界には、9人の“繋”が居ると。
 

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