時が止まるとき 27
「それが何か問題でもあるの?」
「解りません」
「はぁ? じゃあ放っておけばいいじゃない」
「これが、そうでもないのですよ」
光一くんは表情を変えずに、
「普通、発病者が一ヶ所に頻繁に、しかも何体も出入りすることは考えにくいです。なのにここにはそういった事実がある。その理由が解らないからこそ、調査を兼ねて壊滅に行こうかと」
「そうそう。俺様たちと言えども、この世界の全部を知ってるわけじゃないからな。問題があってからじゃ困るんよ」
「そういうことです。みこともたまには良いことを言うね。出るときには傘を忘れないようにしなくちゃいけないな」
「……さらっと俺様のこと馬鹿にしてないかな、同志よ」
「さあ、とりあえず目標の紹介は終わりにして、次は各自の行動内容について説明しようと思う」
無視されて落ち込んだみことくんが部屋の隅で体育座りを始めたけど、誰も気にしなかった。
ちょっと気になるけど、いつものことなので私もいつものように意識的に無視した。それでも一応、心の中で謝っておく。
届かないけれど、心の中でだけでも言っておかなければ何となく気分が良くないし。
こんなところがミナに言わせれば私の甘さなんだろうな、なんて思った。
「さて、行動といっても、真正面から突っ込んで前回みたいに派手なことになるとまずいですからね。今回の件は懸念要素としては黒に近いグレーですが、まだ確証はない。下手に突付いて無駄な損害は出したくないので、現状把握から開始することにしました」
「でも壊滅も目的なんでしょ? だったら最初から言っても一緒じゃない」
いつものようにミナが質問する。
「そうでもないですよ。前回の作戦を無事に終えられたのは偶然のおかげと言って差し支えありません。終わってから振り返れば訪れなかった可能性の話でしかありませんが、前回は下手をすれば全滅の危険性もありました」
光一くんは少し真面目な声色。
眼鏡のブリッジをくいと持ち上げて、
「いい機会ですから聞いてください。正直に言って、僕らの総合戦力は大したことはありません。もっと言うとかなり脆弱です」
ひとりひとりの顔を見回し、
「確かに皆さんの個々人としての資質は一般的な数値と比べても優れていると思いますよ。はばかりながら僕とみこともです。能力の習熟度合い、身体能力、状況判断など、総合的に計ればかなりの戦力として見てもいいでしょう。おそらく、たいていの集団よりも戦力の質はいいはずです。ですが、現在の僕らにはどうしようもないものも一つあります。実際にインチキ教団と戦ってみた皆さんなら解っているでしょう?」
光一くんの投げかけた質問に、教団内で大暴れしたときの記憶が甦る。