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ディストーション 10

ちなみに、瓦礫の下に埋まってた俺が発見されたのは、その十分後である。



「本当にありがとうございます」
もやしに服を着せたような若い町の治安維持官が、先刻から三十回は言った台詞を繰り返す。
「構わんさ、俺達は己の身を守っただけだからな」
慣れない尊敬の眼差しに耐えるため、なるべく目を合わせないように応じる。どうやらこいつには俺達二人が真夜中の死闘の末、エイリアンを捕獲したように見えたか。まあ悪い気はしない。わざわざ逃げそこなって瓦礫の下に埋まってた事実まで言う必要はないだろう。
「貴重なサンプルまで残してくださって…なんとお礼をいったらいいか…」
そうなのだ。まさに“怪我の巧妙”。文字通り無我夢中のヨハンの手によって、人喰いエイリアンの生態が暴かれようとしているのだ。そんなわけで、今回はなんと多額の謝礼金ももらえるらしい。
…とはいえ、金を持っていたがために、あのナ○ック星人の遠い親戚の新居にされかけたことを思えば、有難迷惑と言えないわけでもない。

「……いやぁ、本当に勇気ある方で。今時いませんよ、“報復”を怖れない人なんて」


報復…?

「ちょっと待て、今報復と言ったか?」
「ええ、“彼ら”は仲間意識が強いですからね。まったく、近頃のそこいらのヤクザ顔負けですよ」
団体様でいらしたかっ!?
「……どうかされましたか?」
気のせいか、“もやし”の眼鏡がキラリと光ったように見えた。
「いやなに…俺も家族旅行は久しく行ってないな、なんてな」
「“家族旅行”ですか。そうですね、母星を追われてからいつ終わるとも知れぬ長い旅。運命を共同するという意味では、見知らぬ間柄とはいえ、彼等は家族だったのかも知れませんね」
「ロマンチックじゃないか」
「他所から見ればそうかも知れませんね」
逃走の極意其ノ一、『危うきを知れ』。『逃げ足マイスター』こと俺のセンサーは、今まさに降り懸かった火の粉を払いのけることに失敗したと悟った。

「では、謝礼金をお渡ししたいので、あちらの事務局までお越しいただけますか?」
“もやし”は、いつの間にか静かになった町に佇む、一軒の建物を指差して言った。
「あ、ああ……」
「お連れの方は先にいらしてますから」
ハハハ、ヨハンめ……。

「なら謝礼金はそいつにわたしてくれ。俺はちょっと用事をおも――」
「アッシュー!見て、俺こんなに金持ってんの初めてだ」
かつて見たことのない大金を抱えたせいか、ドアを蹴破って出てきたヨハンの表情は歓喜というよりは困惑に見えた。
そのマヌケ面に、よっぽど『バカヨハン!!三回生まれ変わって出直してこいっ!!!』とでも言ってやろうかと思ったが、俺は先に行動に移すことにした。


「あーー!!東の空にUFO群が来たぞーーっ!!」

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