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ディストーション
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ディストーション 11

でるでる。わらわらでる。わんさかでる。

家屋の窓から植え込みから屋根から路地裏から下水道から街灯の陰から。愕然と、茫然と、失望感と虚無感に覆われた間抜け面で、雲一つ鳥一匹いない馬鹿みたいな青空を見上げに出て来たのは、もはや疑いようはない、この町の住人達だろう。

逃走の極意其ノニ『追っ手の虚を造れ』。
この隙を、この俺が逃すはずがあろうかいやない。

「アッシュが逃げたー!!」
「なんでテメェがばらしてんだ、ボケ!!」
ヨハンの懸命の妨害もあって、村人の反応は早かった。
空が暗くなったと思えたのは、気のせいではあるまい。

鍋、バケツ、ボール、ブーツ、石、棍棒、斧、包丁、刀、ナイフ、ハサミ、ホッチキス、洗濯物、タンス、机、猫、砂、鉄パイプ−−…

街が俺めがけて飛んできたのかと錯覚を起こしかけた。
幸い投げ込まれた物たちの落下点は、寸分違わず俺の居た位置へ飛んできたおかげで紙一重かわせた。が、まだ逃れたわけではない。一刻も早くこの身を隠す必要がある。
すぐさま手近な家の扉を蹴破る、進入と同時に裏道への通路を探す。
が、見当たらない。仕方がない、流儀に反するが…。
「ふぬぁっ!」
フライパンを肩当てにし、きれいな壁へいざタックル。
ガラガラと崩れた壁の向こうに、人一人分の幅しかない、家々を仕切る細道が現れた。
−だが、そのとき。
「逃がすかよぅ!」
上空からバラバラ人が降ってきた。かまっている時間はない。向かいの家にブチ入る!
「ふあっ!」
派手な音を立てて壁が再び崩れる。だが、そこにはすでに追っ手が回っていた。
「けじめはとってもらわなきゃねぇ」
そういうと、追っ手の中年女は手にした包丁の刃をこちらへ向けた。
「正当防衛だった、けじめがいるのかい?」
言い終わらぬうちに、俺は手に隠し持った壁の一部をおばちゃんに投げつけた。見事頭部に命中し、卒倒させた。が、次は背後の追っ手に追いつかれた。
「引いた引き金の落とし前をつけろって言ってんだよォ!」
悲痛な叫びと間髪入れずにナイフが乱れ飛ぶ。とっさに衣装箪笥を盾に防ぐ。その死角を利用して、今度は表どうりに出る……いや白状しよう、追いやられたのだ。
“もやし”を中心にして、こんな小さな町にこれだけの人が居たのか、ズラリと扉の前で立ち尽くす俺を囲んでいた。
「今日は誰かの送別会かい?」
「減らず口もそこまでだ、アッシュ君」
再び静まり返る町で、もやしの声が朗々と響いた。
「いかに君が事情を知らぬ旅人とはいえ……たとえそれが正当防衛であったとしても!」
まるで判決を言い渡すかのような、自信に満ちた立ち振舞いだ。正面から、背後から、上空から、地下から。町中の視線という視線に見つめられていると、こんな状況とはいえ何だか照れ臭い…。
「…取り返しのつかない被害を、この町に与える行動であった」

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