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ディストーション
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ディストーション 9

嫌な予感が全身を駆け巡り、俺は体中の毛という毛が逆立つのを感じた。ここは二階だ、自慢の逃げ足はどこまで機能するんだ。
音が階段から廊下に移り、部屋の前で止まる。コンッコンッ。

「開いている、ルームキーはもらっていないぞ」
声が震えていないか不安だった。
返事の代わりにギィと扉が開き、オヤジが姿をあらわした。さっきは座ってたので気付かなかったが、異様に腹が膨れている。満腹とかメタボとか言うレベルではない。まるで『妊娠』しているようだ。暗がりで見えにくいが笑っているように見えた。
「食事の時間だ」
「夜中に食うから太るんだよ」
口を大きく開け、俺のとっておきジョークに笑うのか。が、出てきたのは笑い声ではなく、ヌメヌメした体液に覆われた緑色の生物だった。いわゆる一つのエイリアンてか。始めてみたぜ。

「…しっかり金払ったんだからサービスしたらどうだ」
奴のサイズはオヤジの体の半分ほどだが、それにしたって窮屈だったろう。
「金払わない奴は餌。払う奴は新しい『家』にしてやる」
「光栄だ」
言い終わらぬうちに、見かけ通りの俊敏さで体当たりをかまして来た。咄嗟に手元のフライパンで弾き飛ばす。冷や汗をかいたが、相手の体が意外に柔かったのでこれはセーフ。

エイリアンがニヤリと笑う。新居(仮)が気に入ったのだろうか。さらに大きく口を開けると、喉奥から物体が高速で飛び出してきた。

ガイ〜ン

ワンナウト。どうやら吐き出した物体は人骨のようだ。

痰を切るような音がすると、今度は二つ飛んで来た。

ガイガイ〜ン

スリーアウトチェンジ。俺はベンチに戻るがごとく、迷う事なく窓から飛び出した。そう、半径十メートルの外側を目指して。


残された状況を説明するのは難くない。『エイリアンvs低血圧の変態』。
「『お兄ちゃん、背中流してあげようか』だってよ………もう少し………もう少しでアイツの未発達の全身が拝めたのに………マイ☆スウィート☆妹ベイビィとの…………甘い甘い夜の時間を……時間を……」
地球外生命体は、初めて目にする変態に、おどろきとまどっているようだ。
「……………………………………キサマカ……」

芯から冷えるような目線がエイリアンの体を射抜く。キラリと光る粉を、それは最期に見た。

「貴様そこを動くなアアアアァァァァァァ!!!!」

床がえぐれ、屋根が吹き飛ぶ。衝撃で煉瓦はバラバラに砕け、壁という壁が傾く。ハリケーンだって裸足で逃げ出したはずだ。
寝室が、家が崩れる。だが絶対零度下の世界で、ヨハンの叫びが夜空に響くことはなかった。



思わず力を使いすぎたヨハンは、その後丸二日寝続けた。幸いにしてエイリアンは寒さに弱かったらしく、凍り付けになって転がっているところをヨハン自身に発見された。

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