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ディストーション 8

占い師が口をつぐんでいたら、流れを変える要素になりうる者も、平和を謳歌するのみで動かないままだっただろう。
占い師は、自ら世界を変革し、可能性を生み出した。
治安が悪化し、不幸になる人々が増えるのは目に見えていたにも関わらず、滅亡の回避に賭けたのだ。

俺たちがそれだというのではない。
だが、億に一つの可能性を提示されて、乗らない手があるだろうか。

無責任占い師の賭けに、俺たちは乗った。

あとはのるか、そるか。



「要は今の俺達は水戸の御老公ってわけかい、能書きアッシュ?」
「まあそう外れてはいないな、バカヨハン」

そうこうしているうちに次の町へとたどり着いた。巨大なハリケーンの爪痕を残す町なみ。吹きすさぶ風に紛れて悲鳴、銃声、怒号。助けてくれる救世主は(俺達を含め)いない。世はまさに世紀末、ってか。
かつてはよく整備されてたであろう歩道は、今や目を背けたくなるような共同墓地と化していた。
とにかく、今は屋根のある宿を探すか。



だが、良い宿はなかなか見つからない。
辛くもハリケーンの刃から逃れた家は、大方ゴロツキのアジトになっているに決まってる。長旅で疲労が溜まっている体では、俺もヨハンもあまり能力に頼ることは出来ないのだ。暴力沙汰は面倒だった。
途中ヨハンと二手に別れて捜したが、収穫は極めて乏しい。諦めかけたその時…。
「あそこはどうだ?」
ヨハンが指差す先には、赤錆びた煉瓦に蔓が覆うこ洒落た二階建ての一軒家。見たところ人気はなさそうだ。
「そのうち帰って来るんじゃないのか?」
「俺達が留守番してやるってんだよ」
マズイ…疲労感で阿呆の機嫌がすこぶる悪い。トラブルは避けたいが、早いとこ腰を落ち着けたほうが良さそうだ。ヨハンが邪魔な位置の白骨死体を蹴り飛ばして、屋内へと押し入った。



先ほど俺は人気がないと思ったのだが、勘違いだった。いや、『半分』は当たっていた。最初そのでっぷりと太ったオヤジが視界に入ったときは『死体』だと思ったからだ。

「五ヘイトだ」
生きているとわかったのは、単純にそれがしゃべったからだ。
「金をとるのかい?」
このご時世、商売とは珍しい。ちなみにヘイトは通貨単位だ。
「二人で十ヘイトだ」
法が廃れ、力が支配する時代では、金銭など石ころほどの価値もないのが常だ。まあ一応持ってはいるが…。
ヨハンが勝手に二階へ上がっていった。俺はため息と共に、かつてはパン一個ほどの価値があった紙切れを差し出した。
宿のオヤジはそれを特に一瞥するでもなく、ジッとヨハンが去った方を見ていた。

気味の悪いオヤジだ。



深夜、幸せそうなヨハンの高イビキのおかげで眠れないでいると、階段の軋む音が部屋に届いた。宿の主人だろうか、ヨハンの音に比べるとずいぶん重い。

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