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ディストーション 16

おいおい。さしものヨハンもだまってら。
「許さない……大事な一人娘を!!妻が去ったときも、私のもとにいることを選んでくれた娘を!!手間のかからない子だった。こんな町じゃあ遊ぶ友達すらできないのに!」
言うやいなや、拳を地面に叩きつけた。その揺れは、屋上を移動する俺のところにまで届いた。
「掃除も洗濯も、カレーライスだってオムライスだって作れるんだ!わかるか、八歳の娘がだぞ!!僕はどうすればいいんだ!!この町に、あいつまでいなくなったら誰が僕の夕飯を作ってくれるんだよっ!!」

「…………」
「許さないぞ、お前が、お前が喰われちまえ!喰われちまえばいいんだ、このロリコンが!」
「だぁぁあまれええええええ!!!!」
十分な距離を保ったところで、足を止める。振り返ると、ヨハンの怒りで震える肩が見えた。

…もう少し遠くへ避難しよう。
「さっきから大人しくしてりゃ、コノヤロー好き勝手言ってくれやがって。俺はロリコンじゃねぇっつってんだよ!!」
ヨハンの背中が膨らんだ。




「俺はシスコンだ!!!!!!」
……だめだ、救えねぇ。

サアと、光輝く粉が舞った。どうやら始まるようだ。

一秒後、ヨハンを中心に、鉄パイプを伝って放射線状に屋根にヒビが入っていった。
二秒後、二階建ての家屋の屋根板が極限収縮を起こし、崩壊を始めた。
三秒後、崩れ落ちる屋根と、その重みに耐えきれずに潰れる二階層。
四秒後、もうもうとした土煙の中に、そこにあった建物は吸い込まれた。ヨハンもろとも。


ふぅ、と一息つく。この土煙で決着は着いた。またしても、俺の逃走神話は守られたわけだ。
悲鳴、銃声、怒号。なかなか晴れない土煙のなか、また、はじめて来たときの、あの喧騒がよみがえっていた。
よいしょ、と声がして振り向くと、もうヨハンがよじ登ってきていた。
「まったく、なんなんだろうね、この町は。せっかくこの僕がボケてるのに、誰も突っ込んでくれないんだよ」
まあ、アーノルド以外は呆れてものが言えんかったんだろうな。色んな意味で。
「行くぞ、ヨハン」
俺たちは、町の外へ走り始めた。


ところで…。

「お前、あの治官の娘のところにいたんだろ。どうしてこっち来たんだ」
ロリコンかシスコンかは置いといても、こいつが幼女をほったらかしてくるのは意外だった。
俺たちは話しながら、丈夫そうな雨どいを伝って地面に降りた。でかい体ながら身軽さに自信がある俺だが、顔に汗一つかかずについてくるヨハンも中々のものだ。
町の出口が近づいていた。
「あ〜、リオちゃんね」
リオちゃんというのか。ヨハンは何かつまらないものを思い出す顔で話した。

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