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ディストーション
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ディストーション 15

『能力』によって火の玉程度にはなった木屑だったが、間一髪で防がれた。反撃は早く、すかさず1・2パンチが放たれる。風は複雑な軌道を描き、足元を根こそぎ奪われたように地に伏した。
静けさに、川の音が、また聞こえてきた。奇襲を凌ぎ、アーノルドは落ち着きを取り戻したようだ。
「油断ならない男だな、君は。早く観念したらどうだ」
流石に返す言葉がない。万策尽きはてた、のか……。


「やれやれ…」
俺はゴロリと仰向けに寝返った。

絶体絶命か。


いや、違う。俺には、まだやれることがある。
“クニ”を出たとき、この旅の終わり方を決めたはずだ。もう二度と、迷わないように。

―そうだろ?

そっと、懐のライターに手を伸ばしたその時。

「アーーーーーっシュ!!!!」

「…えっ?」
聞きなれた声。今ごろ幼女に磔にされているはずのあの声。
「ヨハンだとっ!?」
「どこだっ?」
「―あそこ!屋根の上!」
町中の視線が、どこから這い上がったのか、二階建て民家の屋上から仁王立ちにこちらを見やるヨハンに向かった。

いやいやいや。
かっこつけてるけどお前今まで幼女とイチャイチャパラダイスだったからね。つか正直こんな形で登場されると、主人公としての面目がね…。


ま、いっか。

考えている余裕はない。視線があの馬鹿に集中してる今、俺は自慢のロケットスタートで、ものの三歩で最高速に乗ると、気配を察して振り向いたアーノルドの顔面めがけて四歩目を跳躍する。音速を越えたであろう反撃のストレートは空を切り、町人を三人ほど吹き飛ばしたのを尻目に、俺はアーノルドの顔面から渾身の五歩目を踏み出した。
景色が回転する。人々の驚く顔は皆一様で、視界の外へ流れては戻ってくる。つまらない景色だったが、思い切り跳んだ時の、風を切り、重力を切る体感は好きだった。ほんの数秒にも満たぬ空中遊泳は、ヨハンの隣に着陸して終わった。
「随分とおいしいところをもっていくじゃないか」
「遅くなったね」
「ああ」
それだけで、十分だった。
「貴様ッ、私の娘を、娘をどうした!!」
アーノルドの悲鳴にも似た詰問に対し、ヨハンがニヤリと笑う。爽やかだったが、どこか胡散臭い笑みだった。
「ま、ま、まさ…か、こ……こ……ろし…」

おーおー、動揺してる。偉そうなこと言っても、所詮人の親ってね。
「誰が猟奇的な彼氏だ」
ワケわからん突っ込みをしながら、手にしたパイプを屋根に突き立てた。ヨハンの考えていることが何となく伝わったので、先に離脱することにした。バカと馬鹿のやり取りが耳に入る。
「なぜだ!それしか考えられん!やはり貴様は……」
「そう、俺がガン○ムだ」
「許さない……大事な一人娘を!!妻が去ったときも、私のもとにいることを選んでくれた娘を!!手間のかからない子だった。こんな町じゃあ遊ぶ友達すらできないのに!」

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