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ディストーション 13

「彼のことは“よく知っている”。君を連れて来るまでの間、事務局にいる娘の世話を頼んでおいた。ちなみに当年とって八歳だ」
「なんてこった……」
これであの変態は磔にされたも同然だ。
「私は『治安維持担当官』だ。この町を守ることが、私の生きる意味なのだ」
「自分の娘の貞操差し出して何を守るって?あんたは他人様から評価されたいだけだろ」
「与えられた役割に殉じて何が悪い!」
「カッコ悪いって言ってんだよ」
「貴様のせいでこの町は消えるんだぞ!!」
「だから何だってんだ!」
俺は、萎縮しそうになる自分を励まして叫んだ。
「娘差し出してまで、守るものって何だよ。てめえは、ほんとにこの町の全員守ってやりたいのか?ほんとに?」
アホヨハンの助けが期待できない以上、自分で何とかするしかない。俺は言いながら、フライパンの柄を握りしめた。表情に出ないように努めながら、能力を発動する。

フライパンの隅に、先刻壁をぶち破ったときに落ちた木くずがわずかにこびりついていた。
じりじりとフライパンの底から煙が立つ。能力で熱しているのだ。
本来俺の能力は、炎の温度を自在に上げることから始まる。
だが、何もないところから自力で着火するには時間が必要だった。フライパンの温度を、その上の可燃物、この場合は木くずの発火点まで上げなければならない。

最大限集中して、数百度まで一分…いや、二分弱か。
ごく小さな種火の一つでもあれば、同じ時間で数千度の炎にだってしてやれるのに、じれったいにもほどがある。だが衆人環視のもとでライターを取り出すのは無理だ。
アーノルドはどうやら、俺たちの能力のことも知っている。点火のそぶりを見せたとたんに攻撃がくるだろう。

「何が言いたい?」
時間稼ぎ目的の問いに、幸いアーノルドは気付かなかった。
「こんな他人どもより、自分と身内守るのがまともな人間ってやつじゃねえのかよ」
アーノルドはあきれたようだった。
汚らわしいものでも見るように鼻の頭にしわを寄せながら奴は言った。
「言ったはずだ。私は治安維持担当官、市民を守るためにここにいる。私にとって、町の者こそ身内だ。私は町のために身を削る覚悟がある。…そしてあの子はただの身内ではなく、いざとなれば削るべき私の…一部だ」
「てめえは…っ」
「君らだって、世界を救いたいんだろう。世界の人々のために己を削る決意をして、旅に出たのではないのかね」
「てめえと一緒にすんな!」
何だか腹が立ってしかたなかった。アーノルドは絶対に間違っている。

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