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ディストーション
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ディストーション 12

もやしが言葉を切ると、何処からか川のせせらぎが聴こえてきた。その余韻を味わうかのように、たっぷりと間を持たせてから、もやしは続けた。
「そして私、アーノルド・パークスマンが治安維持担当官として、君たち二人が、今まさに今宵の最後の晩餐の準備を整えているであろう、あの怒り狂った薄汚いバケモノ達のところへ…“謝罪に行く”ことを要求する!」
もやしこと、アーノルド治官のテンションが上がる毎に、俺を囲む円の半径は縮まってきた。
「もし断れば…?」
「できるかね?」
咆哮。突然の雄叫び。アーノルドが町の静寂を切り裂さくと、その貧相な体が徐々に膨らんでいった。ヒノキの棒だった手足は丸太よりも太く固く張り、向こう側が透けて見えそうな胴体は山脈のように隆起した。190センチに及ぶ俺の体の肩ほどしかなかった身の丈はあっさり逆転した。
「“男子三秒たてば刮目してみよ”……だっけか?ところでその服、随分丈夫そうだがどこで買ったんだ?」
アーノルドの呼吸は荒い。能力の代償か、えらく辛そうだ。

「ぎ……き、君には少し動けなくなってもらう……。わ、詫びの言葉はどうせ……必要な、…なかろう」
言い終わるなり大きく咳き込むと、ピタリと、呼気が止まった。
思わず身構える。不意に屈んだ姿勢から、アーノルドの岩石のような拳が振り上げられた。
「う………っ!!」
奴との距離は十歩。当然かすりもしないが、拳が巻き起こしたハリケーンによって、一般人よりは数十キロは重い俺の体が宙に浮いた。
囲みの人間が、待ってましたとばかりに手持ちの武器を握り締める。何とか寸前で踏ん張り、睨みを効かせて奥に追いやった。
「流石だよアッシュ君、君の噂は聞いている。数々の町を渡り歩いてはトラブルを引き起こし、結果潰れた町は13。中には来訪が幸いした町もあったそうだが…。…しかし私の町は潰させはしない。いかに君の足が早かろうと、一本切り落としてしまえば、そう早くは走れまい」
アーノルドが足を一歩踏み出す。大きく距離がつまる。
「心配ないさ、アッシュ君。おとなしくしていれば、すべては速やかに終わるはずだ。苦しいのも僅かで済む」

治安維持担当官。かつては町のお巡りさんだった者たち。すでに崩壊の始まった世界で彼らにできることは、せめて愛する町の人間たたをエイリアンの食卓に並ばせないことぐらいだろう。

空を見上げる。相変わらずのバカ陽気だ。周囲を見回す。どの顔も恐怖にとり憑かれ、明らかに正気を失っている。放っておけば三年後にはみんな死ぬのに、こんな時になぜ恐れ、縮こまっているのか。俺には理解できない。
「一つ聞きたい」
「何か?」
「ヨハンはどうした?」

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