クロスロード 14
「それに…」とバルロは言った。「命令は守らないとな。」
「命令?」
「隊長が言っただろ?生きて戻れって」
「…あぁ、そうだな」
そういってバルロとナシアスは笑った。 剣がいつもより軽く感じられ、さっきまではりつめていた緊張も、少しはましになった様だった。
「死ぬかもな」
と、ナシアスは言った。しかし、その顔には恐怖は感じられず、逆に精悍さが増しているかの様であった。
「怖いか?」
「怖かないさ。ただ少し…」
そう言うと、ナシアスは黙った。バルロもなんとなく黙った。
そして、これから起こる凄まじい戦いに向け、精神を集中させていく。
「生きて帰るぞ。バルロ」と、ナシアスは言う。
「当たり前だ。ナシアス」と、バルロは答えた。
「必ずだ」
と、ナシアスは言った。
「この剣にかけて」
と、バルロは答えた。
必ず生きて帰る。
二人は心に、深くそう誓いあった。
その頃 サザンクロス本隊
「今トロイより伝達があった。バルロ達が危ないらしい!」
サルファは隊の先頭を走りつつ、大声を上げた。
「急ぎ助けに行くぞ!!俺に続けぇ!」
戦陣を駈ける矢の如く、馬を飛ばすサルファ。
サルファの脳裏には最悪の事態も浮かびつつある。それは――全滅。 サザンクロスの様な小さな傭兵隊には大きすぎるダメージであったし、またバルロやナシアス等、有望な人材を失うのも痛手ある。それ以前として、若い未来ある奴等を死なせる訳には行かなかった。
「あいつらを殺させてたまるか。死ぬのは年齢順だ」
手綱に力を込めつつ、サルファはそう呟いた。
リロイはサルファの表情からナシアスたちが窮地に立たされている事を理解していた。馬を走らせながらリロイは、ラディンを殺した男の言葉を思い出す。
「革命軍には黒騎士がいる、彼の腕は君が一番知っているだろ?サルファ…」
“黒騎士”リロイはその名前を聞いた時、とても不吉に思った。ナシアスたちに死神が迫っている感じがして、気付いたら隊の誰よりも早く馬を走らせていた。
そんな時、一人で突っ走るリロイを鎮めたのは、決まって隊長のサルファだった。