光闇予言書 14
「おお、じゃ同国人の俺は、何度でもてめえにいってやれるわけだ」
皮肉な口調で遮ったのはオルゴンで、
「このデクノボウ! デクノボウ! デクノボウ! ついでに救いようのねぇド阿呆! いいか、そこのガキんちょはな、俺たちを殺りに来てやがんだよ、殺るのが礼にかなってんのか、おい? 殺るぞ、ってぬかしてるやつに罵られるのが、そんっっなに大ごとか?」
……たしかにミルボロの台詞は、大事と小事の判別がついているとは思えない。
「でもでも、いや、しかし、オルゴンさまっ」
半泣きのミルボロを無視し、クスラルに眼を戻したオルゴンに、クスラルはいった。
「さて、これで死ねるか、九選士がひとり。やがてあと八人も行く……ああ、そのデクノボウもいたな。ではあと七人」
「できればデクノボウとは離して送ってほしいんだがね」
「それは、無理だ。うぬら二人、この場で始末する」
「この場、か……」
オルゴンはちらちらとあたりに眼を投げて、
「おまえさん、ここがどんな場所か知ってんのか」
「知らぬといったら?」
「いや、べつに構わんが――じゃ、俺の素性のついでに俺のオンナを知ってたりもしないわけだ」
「あ?」
こいつ、何をいっているか――と顰められたクスラルの美しい顔が、次の刹那、さっと緊張した。
まばゆい輝きをはなつ金とも銀とも見える光球が、彼へ矢のごとく突っ込んだのである。クスラルは身をひねって避けたが、白銀の髪の数本が切りとばされた。
クスラルを掠めて、光はオルゴンの隣に静止した。オルゴンは、この怪異にいささかも驚かぬふうで、
「やれやれ、遅えよ」
だれに対してか呟くと、
「……俺のオンナを知ってりゃ、ここで俺に仕掛けるなんてバカなこたぁ、しなかったろうにな、おまえさんなら」
なにごともなかったかのように、平然とさっきの続きを喋りだした。
だが、彼以外にとっては、どうして平然としていられよう?
光球は、オルゴンにならぶや、みるみるうちに膨れ上がった。ちょうど、人間の大きさにまで。
否――大きさどころか、そこには人間そのものが出現したのである。
光球が、人と化した!
……それも、あらゆる描写を超越した絶世の美女に。
「悪いねぇ、ちょいと、邪魔するよ」
輝くような――いや、真実、人形となってなお光を放つその美女の、露にぬれた花弁のごとき唇から、まったく予想しえぬ伝法な言葉がとびだした。
「でもねぇ、ここはこのウェリアル姐さんの縄張り――シマ、なんだよ。勝手に踏み込んだ腐れガキに、好き勝手してもらっちゃ困るのさ! ましてや、アタシの情夫(イロ)に手ェ出されちゃあね」
まくしたてた彼女は、傍らのオルゴンの首に腕を絡ませ、その唇におのれの唇をおしつけた……この場合に、なんと彼女はオルゴンにキスをしたのである。