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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 30

 だが御刻はお構いなしに話を進める。昨日もそうだったが、対話というよりは事に関する一方的かつ断片的な報告だ。
「ともあれ電話してみても捉まらないとなれば、まだ帰宅していないと考えるのが妥当だろうが」
「……それで、こうして待ち伏せしてたと? でもオレも健全な男子学生として帰りに寄り道ぐらいしてたかもしれませんよ? そしたら待ちぼうけに」
 御刻は若月の言葉をさえぎるように一枚の紙片を取り出した。どうやら何か書類のようだ。いぶかしげな若月をよそに、御刻は書類の内容を無表情に音読し始めた。
「――若月・彰の交友関係について。クラスでは浮いているわけではないが特定の人物と帰宅することはなく、単独での帰宅多数。また、放課後や休日に誘われることも多くはない。以上のことから、交友関係は非常に希薄。
 ――観崎の報告書だ。信憑性は高い」
「なっ――!?」
 言葉が出ない。
 いつの間にそんなところまで観察されていたのか。と言うかあっさり人格否定されてしまった。なぜ自分の周りはこんなキワモノばかりなのだろう。
 もはや身に振られる奇態もここまで来ると、ただ嘆くだけでは生ぬるい気がした。
「ところで孤独を好む若月彰」
「別に好きじゃありません!」
 若月の或る意味悲痛な叫びは当然の様に流され、その代わりとばかりに御刻の懐から件のお守りが取り出された。
「お前にこれを返しておく」
「あ、どうも……」
 ほぼ反射的に頭を下げながらそれに手を伸ばす若月。
 その行為の途中、唐突に御刻が声をかける。
「−−お前はそれが何か知っているな?」
「あ、はい−−」
 形見のお守りです−−という答えを遮る一言。
「……そうか」
 瞬間、夕日を受け朱く染まった『それ』が若月の体を貫いていた。
 
 今、自分が何をされたのか−−若月には瞬時に理解する事が出来なかった。
「えっ……?」
 ゆっくりと視線を落とすと刃渡り90センチ弱、反り身で片刃が特徴的な−−そう刀らしき仄かに光る物体が自らの体を貫いている。
「第二段階で手応えが無い−−魔術師ではないのか……っ!?」
 御刻の表情に顕れた動揺はしかし、今の若月にとってどうでもいい事だった。
「う、うわぁぁぁ〜っ!!」
 自分が死ぬ−−そう自覚しない様あらん限りの叫びを上げたその時−−不意にその手に握りしめたモノが存在感を増した。
 混乱した思考の中でその存在だけは奇妙なまでに鮮明に感じ取れ、その何かを起点に溢れるものが徐々に世界を侵食していくのを感じた。溢れる流れは無数の詞に等しく、しかし聴覚はおろか、五感のどれを用いても感じ取れるものではない。
 本能的に分かる。それは存在してはいけないもの。この世の法則を飲み込み、壊し、蹂躙するほどの物。しかし抗おうにも異常な気配の奔流は止まらず、意識を保つことすら困難になりつつある。ありえざる力が世界を、そして若月の存在自体を歪めていく。

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