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魔術狩りを始めよう
その他リレー小説 - ファンタジー

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魔術狩りを始めよう 13

女の言葉に警戒して辺りを見回す若月
目に入るのは長距離通勤者と思われるバスを待つサラリーマン風の男、早朝の入荷をするコンビニ店員、犬の散歩がてらジョギングをする中年の夫婦……先の少女の姿は見当たらない
「……なんだ、多分先輩の気のせいっすよ」
若月が胸を撫で下ろしながら女に声をかける
「戯け、奴とは別クチだ……さっきも言っただろう?ヒトならざる者こそ普段は現実離れした日常にしがみついている、とな」
そう言うと自嘲気味に嗤う女
 そして言葉に詰まる若月を一瞥、表情から険を消し、
「まあ、規模としては奴とは比べるまでもなく小さい。今は放っておいても問題はないだろうな」
「でも、あの娘の仲間の可能性は……?」
「さぁな。だが、不用意に力を使いでもしないかぎり、奴らからみれば私たちはただの一般市民だ。いきなり襲われるような事はないだろうさ」
「……それもそうですね」
 安堵の息を吐き肩から力を抜く若月。しかし、すぐにその顔は驚愕に歪む。
「……先輩!」
 そして女は見た。周囲の人影が、次々とその身を黒い獣へと変貌させるのを。
「ちっ……どうやらハメられた様だな」
再び女の表情に険が生まれる
「先輩っ!どうするんですか!?」
悲鳴にも似た声を上げる若月
「知れた事……奴の許まで切り進むまでだ!若月、私の側を離れるなよっ!!」
女はそう若月に言い放つとフツノを抜き、より強く“ソレ”を感じる方へと走りだした
我先にと襲い掛かる獣達を時折フツノを振るうばかりで難なく捌き走り抜ける
しかし、“ソレ”に近づくにつれ増える獣に次第に足は止まりがちになり、遂には完全に行く手を阻まれてしまった
「ちっ……。どこの動物園だよ、ここは」
「そんなこと言ってる場合ですかっ!?」
 女はわめく若月に視線を向け、
「五月蝿い。切り抜けるだけならできなくもない。お前を放っておけるなら、な」
「……まさか俺、お荷物ですか?」
 月はすでに沈み、ツクヨミを使えない若月はどこにでもいる高校生だ。多少世界の裏側を垣間見たところで、その事実は依然として変わらない。
 そんな若月の心配をよそに女は首を軽く振り、
「それはお前次第だ。その首の上に乗っているのが西瓜じゃないならば、知恵を絞るぐらいはできるだろ?」
「…もし、俺に良い考えが思い浮かばなかったら?」
 ふとよぎった疑問を幽かな期待と共に言葉にする若月。しかし、
「ふっ…知れた事。貴様を見捨てる。」
 女は軽く鼻で嗤うと若月の予想通り、いや、それ以上に悪い答えを返した。
「…じょ、冗談っすよね?」
「戯けが…こんな時に冗談など言うわけがなかろう?」
 その時の女の目は若月の絶望感を煽るには十分だった。
「(考えろ、考えるんだ俺。間違い無く先輩は本気だ…)」

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