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魔術狩りを始めよう
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魔術狩りを始めよう 12

「しっかし先輩。あの娘、ちゃんと学校行ってるんですかね? 行ってない可能性もあるじゃないですか」
 若月の言っていることはもっともだが、女には確信があった。
「どうだろうな。可能性の有無なら逆もまた然りだ。ただ、私は普段と同じにしていると思うね」
「根拠は?」
「それはお前も分かっているだろ。しがみ付いていたいのさ、日常にな」
「?」
 よく分からない顔をした若月に、小声で付け加えた。
「――自分がヒトではないなんて、信じられない、信じたくないんだよ。お前もあの小娘も……私も、な」
「ヒトでは、ない? オレはともかく、先輩は――」
「声が大きい。私達だけだといっても、目立つ言動は慎め。怪しまれる」
 人差し指を若月の唇に軽く当て、女は静かに首を振る。
「……魔術に関わってしまえば、それまでの現実は全てまやかしも同じだ。常識など在って無きが如し。
 それまでと同じ『ヒト』としてのまともな暮らしが出来るはずもない。
 それでも――日常を全否定する事はしない。いや、できないだろう、お前も?」
 ぐ、と言葉に詰まる若月。確かにこうしていながらも、心のどこかではまだ普通の生活を望んでいる自分がいるのを自覚しているのだ。
「……だけど、オレも先輩も、人間です」
 その呟きは問い掛けではなく、自分への確認のように。
 女はそんな若月に、一瞬だけさまざまな感情を含んだ視線を向けたが、それもすぐに窓の外へと戻すと、それっきり押し黙った。
 会話を失い、バスの駆動音だけが二人の周囲の空気を震わせ続ける。
 そんな沈黙の中、不意に女が呟いた。
「――降りるぞ」
「え? 何ですか、いきなり」
 女は疑問符を浮かべる若月を一瞥し、
「目的地が近い。バスを降りる理由としては十分だ」
「……はい、仰るとおりです」
 やがて次のバス停に着き、女は無言で先に下りた。代金を払わずに。
「あれ? 先輩、お金は……?」
 しかし女は聞こえていないのか、答えず歩きだす。
 バスの運転手の怪訝そうな視線が痛い。
 結局、若月は痛みを堪えるような顔で財布を取りだした。

「先輩ッ! 待ってくださいよっ」
「……何だ?」
 不機嫌そうな冷めた目で睨まれ、喉元まで来ていた抗議の文をあわてて飲み込む。
 原因は分からないがあまり上機嫌ではないらしい。
 こういう場合、触らぬ神に祟りなしだ。
 だとは思うのだが、呼び掛けた言葉は回収できず、無言は雰囲気が許さない。
「あ、あの、えっと、――が、頑張りましょう!」
「……」
 早朝、虚しく無人の道路に響く声。
 それは一つの動きを作り出した。
 不機嫌だった女の表情に険が含まれる。
「す、すみま――」
 しかし、女は、反射的に謝罪の姿勢に入った若月には目もくれずに、
「これは――近い」
「……は?」
 呟くその顔は真剣そのものだ。
「惚けるな。分からないのか? ――誰かが歪みを使っている」

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