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飛剣跳刀
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飛剣跳刀 40

「今だけはそう呼んでやる。こんな盗賊行為に付き合って、ご機嫌を伺ってもやるわ」
「え…?じゃ、きみ、盗賊で来たの?」
「聞いてりゃわかるでしょ?まあ、丁霊龍は品物を盗むためだけじゃなくて殺しそのもののためでもあるみたいだけど。さもなきゃ今夜みたいに商隊じゃないパーティを襲うわけがない」
「えっと、それじゃあ、さっきいってた黒衣の男とか筝の音って」
「丁霊龍のことに決まってるでしょ。燕雪衣とわたしはオアシスのこっちから、あいつはもう片側からって話になってたの。でもあんたは出会わなかったのね」
 ──まさに、その瞬間。
 バラン、と筝の弦を弾く音が響いた!
 すぐ近くからだ。ニルウィスが喉をひきつらせつつ、
「あいつよ…近くにいたんだわ…表の連中は始末したのかも…どうしよう、今のを聞かれた!」
 喘ぐようにいった。
「え…?」
 城太郎はキョトンとしている。ニルウィスの話の複雑さに、まだ頭がぼんやりしているらしい。
 が、その彼の躰に、次の刹那波がたつように緊張がはしり、両手がそれぞれ刀の柄と鯉口にかかった。まるで一息前とは別人のような隙のない構え。
「ふん」
 筝の音が聞こえたあたりから低い嘲笑と…漆黒の影が流れ出した!
「きゃあっ!」
 ニルウィスが悲鳴をあげる。
「…わっ」
 と、城太郎も叫んだ。ニルウィスが悲鳴をあげるなり、彼にしがみついたのだ。
 ──剣法というのは、無論相手がいることを想定したものだ。…味方の動きを予測した剣法なんて、どんなしろものになるやら、見当もつかない。味方のいるときは、それを自分で考えて動きなり構えなりするものだが──何もなくてすら型通りにしか動けぬ城太郎に、そんな器用な真似は出来ない。
 で、ニルウィスにしがみつかれて、あっけなく共倒れになった。…ばかりか。
「うわあぁ〜っ?」
 間抜けな声ももっとも、倒れ込んだあたりに地面が亀裂の口を大きく開けていたのだ!
 どれくらいの深さのものやら…飛び出してきた男はもちろん丁霊龍だが、彼はその亀裂をじっとのぞき込んだ。
 浅黒い顔は無表情で、…彼は実際、ニルウィスと誰やら分からぬ男がどうなろうが知ったことではなし、そもそも妻が弟子をとったのすら内心うっとおしかったところで、ニルウィスの思惑を知った今は尚更、いい厄介払いになったとすら考えている。
 だから、あまり気にかけず立ち去りかけて、ふと、目の前を妙な霧が閉ざしているのに気付いた。…と、その一部がゆらりとゆれて、たちまち霧全体が薄くなり…そこから、
「城太郎?」
 白い服を着てはいるが燕雪衣ではない、端麗な美貌の少女が走り出してきた。
「あ…っ」
 走り出してきたのはもちろん芙蓉──城太郎の声を聞いた途端、そこに別の声と物音が混じったことも確認しないままに、思わずとってしまった行動だった。突然襲いかかってきた女を「五里迷宮」の忍法で霧を張り、まいた後だったのに、その一味ではないかとすら考えていなかった。彼女としては珍しいことだ。
 丁霊龍がにやりと笑った。こいつの笑みは、まず唇がめくり上がる。まるで獲物を見つけた獣が牙をむいたようで、彼の残虐を、この笑いはそのままに示していた。万人、戦慄するその笑顔に、しかし芙蓉は不思議な反応を返した。なんと、あどけない、魂をもとろかすような笑顔を向けたのだ!

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