最果ての城 9
「……との事です。いずれにせよ、レオはもうここに居る事はできません。末端とはいえ、他国の領内で軍人二人が消えたとなると、中立でも隣国です。黙っていない可能性もあるでしょう。極秘裏に複数の捜査員を送ってくるやも……」
「そうだ。二人でも危なかったんだ、あんな奴等がまた来るなんて……かあちゃんだって危ない」
「でも、でも絶対にとは限らないじゃない!軍人なんて末端は幾らでも補充が利くんだから」
「確かに可能性は高くはありません。しかし、いつまでもここを訪れるのが恩賞目当ての一般人だとは思わない事です」
本人の意志に加え、これだ。母の心は揺れた。
「その目立つ容姿はどう誤魔化すのよ……?何度やっても髪は染まらなかったじゃない」
「剃るよ、目立つ事に変わりは無いだろうけど、一応誤魔化せると思う」
引き留める理由がなくなってきた。こうなるともう泣き落としにかかるしかないが、苛立っているレオには逆効果だ。
「お、俺はあんたの所有物じゃねえ!」
扉を打ち破る勢いでまた出ていってしまった。
マラナは一番いい展開を考えてみる。実際レオを連れていくデメリットは大きいだろう。だがメリットも大きい。
(ここに置いておくのも危険だ。いっその事ヴァラキアの研究施設に送ろうか。その方が国の為に……)
駄目だ。マラナはかぶりを振った。これではどうしようもない。絶対的な基準を据えなければならない。
老人は放心状態である。考える時間はまだ少しある。
マラナが旅に出た理由の主軸として、戦争を終わらせる事が挙げられる。なら戦争を終わらせる助けになる行動はどうか、考えればいい。
暫くして、結論を出したマラナはおもむろに口を開いた。
「レオは一緒に連れて行きます。そのかわり、無事にここに帰す約束をします」
老人の潤んだ瞳がマラナを静かに睨みつける。その瞳には怒りだけでなく、絶望や嘆願の色も見てとれた。
マラナは一礼するとその場を後にし、不安と後悔で消沈しているであろうレオの元へと向かった。
レオは宿の外の小さな庭にいた。
「俺……あんな事言ったけど、良かったのかな」
マラナはそれには答えず、連れていく意志を告げた。
「本当か!?レニチケまで連れて行ってくれんだな!?」
急に元気になったレオを眺めつつ、マラナの良心は痛んだ。このような方法で二人を引き離していいのか、と。
老人を納得させてから連れて行くのが、一番良かったはずだ。今でもそう思う。
だが、現実は甘くない。相手は頑なだったし、マラナの説得は下手だ。無理に説得しようとすれば逆効果だっただろう。
(これでいいんだ……)