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最果ての城
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最果ての城 27

「触るな!」

彼はぎくりと、老人に向けた手を止めた。
反射的に従ってしまってから、彼は不可解そうにマラナを振り返った。

「触るなって、じいさん倒れてるんですよ。発作でも起こしたのかも…」
「おそらくもう遅い」

青年の非難がましい言葉を、彼女は老人のもとにかがみこみながら遮った。
彼女の早い目は、老人の下に広がるかすかな黒ずみをとらえていた。そしてこの異臭だ。

「…死んでいる」
「え?」

青年の目が黒ずみに走り、彼の中でその正体と異臭の意味が繋がった。

「ま、まさか本当に……」
「獣に襲われた訳ではなさそうだな」
「う、うん。見えている限り、噛み傷も無いみたいだし……君、大丈夫かい?」「ハト?」

ハトは少し震えていた。

「し、」
「し?」
「死後数日経っていますね。この、この臭気は」

確かにこれは、死んですぐに放たれるものの強さではない。

「落ち着け、震えてるぞ。小屋の外で待っているか?」
「生命活動中には整然としていた菌叢の均衡が崩れ、バイオハザードの危険が生じる……」
「ど、動物の死骸なら慣れてます。でもこれは……人間の死体は……大きいし、危険だ」

明らかに様子がおかしい。
「少し黙らせてきます。あなたはもう少し部屋の中を調べておいて下さい」
「わ、分かった」

ハトはまだ異常なまでに震えている。暗くて分からないが顔色も酷いに違いない。

「知は空虚だ。死体を見て不潔だとしか感じないなんて、僕は心根が腐っている」

マラナは黙ってハトを抱き締めた。
体の大半がギミックボディといっても、胴体も一部の臓器も、更に血液も生きた人間のものである。

「温かい……」

肌越しにハトの震えが引いていくのが分かった。

「落ち着いたか?」
「うん……」
「一体どうしたんだ」
「昔、僕の住んでいた街で、疫病が発生したんだ」
「それでか……」
「ごめん、今はこれ以上話す気にはなれない。もう大丈夫だから小屋を調べて次の行動を考えようよ」

この少年は感情の収拾が上手過ぎるのかも知れない。すぐに読めない表情に戻ったハトを見て、マラナはそう思うのであった。
やせ我慢をして小屋に戻ろうとするハトを、止めようと手をのばしたところで、ドアが内側から開いた。
出てきた青年は、気遣わしげにハトをうかがった。

「大丈夫? 俺も戦争で死体はけっこう見たけど、なかなか慣れないよな…」

ハトは弱弱しくほほえんで、平気ですと頷いた。
青年はマラナに向き直った。

「死んでからけっこう経ってるみたいですよ。食料品の消費期限がだいぶ過ぎてる。泥棒や獣のしわざにしちゃ中は荒らされてないし、転んで打ち所が悪かったのかな」
「そうかもしれないな。傷の様子は?」

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