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最果ての城
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最果ての城 26

人権保障の国際法ができたから、過去の大戦の時代ほど植民地人の扱いは悪くないはずだ。現にこの町の住民は普通に生活している。この点に関しては、シェザールもヴァラキアも大差はない。
だが、それもマラナがヴァラキア人で、植民する側だからこそ云えることだった。

「南部の方じゃ、抵抗運動が続いてるんですよね…。そのせいで戦線ができて、たくさんの人が難民になってるって聞きました。ミヘザエルが、難民の一時受け入れを決めてくれたって」

彼はそう云って二人に笑いかけた。
当事者ではないこともあって感謝の言葉こそないが、マラナたちにやけに協力的なのは、そういう理由のためでもあったらしい。
身分国籍を偽っている二人は、少々居心地の悪い思いをした。

そうするうちに三人は湿地を抜け、山道をたどってようやくガイドの小屋に到着した。


丸太で組んだ小さな家だった。
ガイド料の案内が書かれた木片が、無造作に入り口の前に突き立てられている。ガラス窓のむこうに、星明かりでかすかに事務机らしき影が見てとれた。

「真っ暗ですね。もしかして、留守なんじゃあ…」

疑問を口にしたのは、ハトが最初だった。
家の中は真っ暗で、人の気配というものがなかった。あたりはもう暗いとはいえ、日が落ちたばかりでまだ寝入るような刻限ではない。
泊まりがけの狩猟にでもついて行っているのかもしれない。無駄足になったか、と呟くマラナに、青年は首をかしげた。

「そんな時期じゃないけどなあ。…すいませーん」

そう呼びかけながら、小屋の戸口を叩く。だがいらえはなく、彼は大した期待もせずに取っ手をひねった。
だが予想に反して、取っ手はがちゃりと音を立てて回った。

「あれ? 戸が開いてる」

開け放しでうたた寝でもしているのか、と彼は扉を押した。
途端、三人はうっと小さく呻いた。屋内から何ともいえない悪臭が漂ってきたのだ。
マラナには覚えのある臭気だった。その正体をいち早く悟って、彼女は鼻の頭に皺を寄せた。

「何だ、この臭い」

青年が顔をしかめながら、室内に携帯発色灯をかざした。白い光が円形に、薄闇を切り取る。向こうの壁、かけられた予定表、簡素な書棚、ベッド、それらを次々に照らし出しながら、光は床をよぎった。
三人は、あっと声をあげた。白光の中に浮かび上がったのは人の姿だった。床にうつぶせに倒れ伏している。皺深い手や首すじ、装いから、老人であることが見て取れた。

「ちょっとこれ…じいさん大丈夫か?」

異常事態に、青年があわてて老人のもとに駆け寄る。マラナは鋭く青年を制止した。

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