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最果ての城
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最果ての城 28


訊ねると、青年は困ったように頭をかいた。

「ごめん、ちょっと触るのは…」
「ああ、そうだな。少しこの子をみていてもらえるか? 様子を把握しておきたい」

そう言って、中に入ろうとしたマラナに、ハトが慌てた声をあげた。

「マラナ、僕も、」
「今は外で待っていろ。必要ならいやでも見てもらう」

小屋に入ってすぐ、マラナは遺体のそばにかがみこんだ。
周辺の床に発色灯を当てて何か痕跡がないかを調べてから、慎重に遺体をひっくり返す。
思ったよりも腐敗は進んでいないようだった。
皮膚も乾燥しておらず、青年はああ言ったが、さほど死んでから時間は経っていないのかもしれないとマラナは思った。
変色した血に染まった服を開くまでもなく、致命的な傷はすぐに見つかった。
そのありかを知って、マラナは盛大に顔をしかめた。

しばらくして小屋を出た彼女は、まず二人にこう言った。

「転倒した先に突起物があったようだ。事故だろう」

ハトが少し不可解そうな表情をしたが、彼女は気づかぬふりをした。
町の保安官に知らせなければ、と言い張る青年に、マラナはかぶりを振った。

「夜の山道を急いで駆け下りるのは危険だ。明るくなるのを待つべきだ」
「でも…」
「知らせても、保安局が検証に駆けつけるのは明日以降だろう。救急ならともかく、もう死んでいる。余計な危険を冒すのは避けよう」

青年はためらいながらも彼女に同意した。
夜闇の中を歩いてくだるだけではなく、さらにあの湿地を辿るのは無理だと判断したのだろう。
遺体と同室で夜明かしというわけにもいかず、小屋の陰でシュラフを出すことになった。

「ハト、少しいいか?」

荷物を降ろしたハトを、マラナはそばに呼んだ。

「もう少し中を調べたい。怖いかもしれないが、手伝ってくれるか」
「別に怖いわけじゃ…いいよ」

青年のとがめるような視線を感じつつ、マラナはハトを屋内に入れた。

「で、何を調べるの」
「考えを聞かせてほしい。生物学者なら、私よりは詳しいだろ。腐敗の進行具合からすると、あまり時間が経っていないように見える」

ハトは直視をしないように、ちらりと死体に目だけを向けた。

「この時季のクレザムは、気温もあんまり上がらないし…このあたりは湿度も高いから、いつ死んだのか特定するのは難しいと思う」
「そうか」

マラナは小さく頷いた。ハトが怪訝そうに彼女をうかがう。それを聞くためだけに二人きりになったのか、と。むろんそうではなかった。
彼女はわずかにためらってから、口を開いた。

「…ハト」
「はい?」
「どういう意味があると思う? この状況」
「状況って、」
「見てみろ」

そういって発色灯を遺体に向ける。
ハトの逡巡を見てとって、彼女は付け足した。

「近づかなくていい。その位置からで」

少年は、困惑の表情で彼女の言葉に従った。眉を寄せ、体が退けるのを必死に押しとどめながら骸に目を走らせる。

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