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最果ての城
その他リレー小説 - ファンタジー

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最果ての城 25

それまで黙っていた女傭兵が急に口をきいたので、青年は驚いたようだった。
マラナは答えを聞いてますます表情をかたくした。
カノープスが得ていた情報とは、ずいぶん印象が違う。
彼の話からマラナは、レオの集落のように、クル=コバドでもレニチケは、魔法を用いて人狼を捕獲したのだと考えていた。
あらかたの人狼は連れ去られ、レオのように襲撃を免れたものが数カ月前までこの遺跡に潜んでいたのだ、と。それでとりあえずの説明はつく。
もっと以前から人狼は姿を消したと云われていたようだが、それもハトの語ったとおり、人を警戒して隠れ住んでいたというのが真相だろう。

しかし青年の話が真実ならば、レニチケはこの地にやってきたが、帰ることはできなかった。
つまり彼らは、人狼を連れ去っていない…ということになる。
にも関わらず、人狼は姿を消していた。

もしや前提が間違っているのか。マラナは最初にそう考えた。
レニチケの襲撃があったという理由で、彼女たちはここに人狼がいる、もしくは過去にいた、と判断した。
そして実際に痕跡を見つけ、近隣住民の証言も得た。
人狼がいたことは間違いない。
だが…レオのこともあるから考えにくいが、そもそも最初から、レニチケの目的が人狼でなかったということはないだろうか。
もしくは、住民の言うとおり人狼はずっと昔に姿を消しており、レニチケはそれを知らずに侵攻してきた…間の抜けた話だが、植民戦争終結直後で情報も混乱していただろう時期だ、あり得ないことではない。

そしてもう一つ、前提が間違っていない場合…人狼が、レニチケの襲撃まで山に棲んでいた場合。
考えられるのは、山狩りにおいて人狼や集落の痕跡を無かったとした、シェザール軍の言葉が虚偽であるという可能性だ。
ただその場合、シェザール軍が人狼をどうにかしたことになる。だが、シェザールが人狼に興味を示しているという話は聞かない。

どこからが間違いで、偽りなのだろう。マラナは思案をめぐらせたが、結論は出なかった。
ハトに意見を求めたいところだが、青年のいる前で議論を始めるわけにもいかない。
青年は彼女の物思いなど知るよしもなく、話を続けた。

「シェザールのやつら、終戦からしばらくはひどかったけど、今はそうでもないです。そのときだって、もし町を襲撃されてたら、自警団じゃどうしようもなかったでしょうしね」

現状を好意的に受け止めようと努める、敗戦国民のもつ諦観の声音に、マラナは思わずハトを見た。
少年は複雑な表情で、黙ったまま彼の言葉を聞いていた。思うところはあるのだろう。彼の故国もまた植民化され、資源と人材を搾取され続けているのだ。

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