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最果ての城
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最果ての城 23

慌ただしくマラナたちのテーブルを立ち去る前に、給仕は呟くようにこういった。

「最後に調査チームが街に来たのは確か、六年前かな。本格的に発掘しようってときに戦争が始まって、そのまま…」

彼はちらりとシェザール兵に目を遣ると、語尾を濁した。

「六年前なら、戦争がもう始まろうってころじゃないのか。そんな火急のときにこんな田舎にある遺跡の調査とは、クレザム人ものんきなもんだ」

シェザール兵たちは、給仕が口ごもったのを気に留める様子もなく、ただ言葉の内容について、揶揄するようにそう笑い合った。



半刻のち、二人は給仕の青年を連れて、トラックに乗り込んだ。
北に連なる山々のうち、遺跡があったのは町から見て西よりの山だった。向かう先は逆の東側で、遺跡の山よりも町から遠い。
街道をつっきって町を東に抜ける。シェザールの駐留基地の照明を右手に見ながら、案内人の示すとおり、マラナは山へ向かう細道に乗り入れた。

山を眼前にして、青年はトラックを止めさせた。
奇しくも、道路の舗装もそこで終わっていた。だが日が翳り、薄暗くなった視界では、途切れた道の先がどうなっているのかはっきりしない。
物問いたげに視線を寄こす二人にかまわず、青年はさっさとトラックを降りた。

「ここから先は、車じゃ無理なんです」

言われて、マラナとハトは目をこらし…そのわけに気付いた。
山裾から麓にむかって湿原が広がっている。高い木もなく、小さな水たまりや沼がいくつも点在していた。
必要最低限の荷物を手に、三人は湿地帯に足を踏み入れた

「気をつけて、俺の通ったあとから外れないようについてきてください。泥にはまっちまうと面倒だから」

彼は迷う様子もなく、ひょいひょいと歩を進めた。まっすぐにではなく、硬い地面を選んで正確に踏んでいく。
試しに彼が避けた場所におそるおそる体重をかけてみると、ブーツが抵抗なく泥に沈んだ。
よくよく目を凝らして見れば、彼が足を置く場所は、生えている草や土の色が、心なし違うような気もする。
なるほど、とマラナは思った。わざわざ彼が案内を買って出たわけがようやくわかったのだ。これは確かに、馴れた住人でなければ通過は困難だろう。
地面は水気を好む植物や苔、キノコに覆われている。

遺跡と魔狼のことでマラナもハトも忘れかけていたが、実のところ地衣類調査の中心となるのはこの一帯だったのだ。
町の者が狩猟や採集に入るのは主にこの東側の山なのだと、給仕の青年は話した。

「それは、西の山に人狼がいたから?」

ハトがたずねると、

「や、たんに獲物が多いからだと思いますよ。湿地に鳥が集まってて…」

彼は答えながらも、首をかしげた。

「でも、確かに子供のころ、遺跡に近づかないようにっては言われたなあ。あれってそういう意味だったんですかね?」

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