PiPi's World 投稿小説

最果ての城
その他リレー小説 - ファンタジー

の最初へ
 20
 22
の最後へ

最果ての城 22

マラナは顔をしかめた。どうも、『研究分野に異常な情熱を燃やす学者』の役が楽しくなってきている節が見受けられたのだ。

給仕はどうやら、彼女たちが店に入ってきたときから、聞くともなしに会話に耳を傾けていたようだった。
シェザール人以外の珍しい外国人、それも観光客ではなく学者と傭兵という特殊な組み合わせだ。注目されるのは当然と言えよう。
矢継ぎ早のハトの質問に、しどろもどろになりながら彼は応じた。

「ええと、昔から狩猟や山菜採りで山深く入るときのガイドをしていた老人で…そういや名前は知らないな…。山奥に人狼がいるって話をみんなにしてました。遺跡の調査のときもガイドに借り出されたんです」
「その方は、今はどちらに?」

給仕は考えこむように首をかしげながらこう答えた。

「今も麓のあばらやに住んでるはずですよ。最近は見かけないけど。もともと、めったに町の方には出てこないんです」
「道順を教えていただけますか? この地図に…」

ハトが荷物から地図を取り出そうとするのを、給仕は押しとどめた。

「今から行くんですか? 町中からけっこう遠いから、着くころには暗くなっちゃいますよ」
「かまいませんよ。いざとなればキャンプの用意もありますし、こちらもあまり時間がないものですから」

少年の物言いに、給仕は困った顔をしてマラナに目を向けた。
学者然とした態度ではいるが、その年頃の少年としてもか弱い見かけのハトである。まともな大人ならば、気の荒い軍人の闊歩する夜道や獣の出没する野道を歩かせたいとは思わないだろう。
しかも、ついている傭兵は、さほど大柄でも強面でもない女が一人だ。彼は心許なく思ったようだった。
見るものが見れば、彼女がそれなりに場慣れしていることはすぐにわかるのだが、店内の照明では素人目にギミックボディを見分けるのは困難であったし、特有の目つきや仕草で判断しろというのも無理な話だ。

「勤務が終わってからでよければ、案内します。地図にある道からは離れてるし、地元のものじゃないと難しい場所なんです」

少し考えてから、彼はそう言った。

「もう半刻足らずですから、お食事でもしていってください」

マラナとハトは顔を見合わせた。本来ならば人狼と遺跡の話をするのにできるだけ人目は避けたいところだが、不案内な土地で時間もさほどないことを目の前のシェザール兵に知られている。怪しまれずにガイドの申し出を断る、相当の理由はなかった。またそれほど複雑な道順なのだとすれば、実際にありがたくもある。
マラナは小さく頷いてみせた。
ハトがガイドを依頼する旨を告げ、礼を述べる。給仕が胸を叩いて任せてくださいといったところで、別のテーブルから彼を呼ぶ声がした。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジーの他のリレー小説

こちらから小説を探す