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最果ての城
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最果ての城 21


見事だ。
台詞だけではない。話す時の身振り、手振り、抑揚が聞き手の関心を彼に向ける。ハトには演説の才能か何かがあるのかも知れない。

「十年位前まではいたらしいけどね」
「遺跡に集落があったんだよな?」
「人狼は敵に回すと怖いからな、国としては基本的に干渉しない。だから詳しい事は分からんが、あそこの集落は何時の間にか消えてしまったんだ」
「消えた?」
「正確には住居を残して人狼だけいなくなっていたらしい。これ以上は教えられん、というより知らん」

「現地の方なら、もっと詳しいことが分かりますか?」
「まあ、クレザム人の方が詳しいに決まってるが…そんなに気になるのか?苔…っと違った、地衣類の調査だろ?昔いたってだけじゃだめなのか?」

深くつっこもうとするハトに、シェザール兵は怪訝な顔をした。マラナは表情を変えぬまま、わずかに緊張した。
だが当のハトはというと、真面目くさった顔でこう続けた。

「もちろんですよ!人狼がいつから棲んでいて、何年前にいなくなったか、正確にわからなければ意味がありません。住居跡とその他の場所の堆積層と照らして過去の分布を調べ、魔法動物の有無がどのように分布図に影響をもたらすのかを…」

熱のこもった弁舌に、マラナは内心で拍手を送った。マラナもうんざりさせられた、調査団の学者たちの物言いそのものだ。
案の定、兵士たちは、面倒なことになったとでも言いたげな様子で顔を見合わせた。
彼らは降参するように両手を挙げた。

「わかったわかった。確か戦争前にクレザム人が遺跡を調査していた記録がある。調査チームに関わってた者がこの町にもいるはずだ。誰がそれかは知らないが」
「そんな人がいるのならぴったりです。どなたか、心当たりもありませんか?」

少々演技過剰に身を乗り出すハトに、兵士たちは引き気味で首を横に振った。
本当に知らないのだろう。

「…町外れに住んでる、山道ガイドのじいさんが調査のたびに同行していましたよ」
「えっ?」

不意に声をかけられて、ハトは驚いた。
学者然としていたのに、とたんに年相応の幼い顔つきになる。
マラナとハトは二人して、バッと声のした背後を振り返った。

「わっ、ごめんなさい!」

振り返った先では、給仕の男が逆にびっくりしたように慌てていた。

「お話が耳に入ったもんだから、つい…話の腰を折るつもりじゃなかったんです。すみません」
「謝る必要は、」
「謝らなくていいんですよ。それより、詳しく教えてください」

マラナの台詞を遮ってまで、ハトはかぶりつきで給仕に問い質した。

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