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最果ての城
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最果ての城 3

魔狼の血は貴重だ。特に軍事国家間では、魔狼が原因で新たな殺戮が起こっても不思議ではないだろう。ギルバートはそれも踏まえた上で、マラナにこの任を与えたのだろう。
「もうこれ以上戦を増やしてたまるか・・・。魔狼、絶対に我が国へ、私の元へ連れていく」
チップが示す一番近い場所は、『カシュケ=ナダ(光漏れ出る湖)』という場所だった。そこは小さな名所だ。それに国内なので宿泊も落ち着いてすることができるだろう。私は幾つかある宿の中でも、一番古びた木造の宿を選んだ。
「・・・いらっしゃい。おや珍しい、お客様かね」
その老人はにっこりと柔和な笑みを浮かべながら、外観に劣らず古びたカウンターに立っていた。
「大体一ヵ月ぶりくらいか・・・しかも女性一人かい?」
訝しげにマラナを見た。
「ええ・・・色々と事情がありまして。宿泊期間は大体二週間ほどです」
「大体って・・・金はちゃんと持ってるの?」マラナはポケットから袋を取出し、老人の前に掲げてみせた。老人はなお、何か問いたげだったが、暫らくすると、溜息をつき部屋に案内した。老人に礼を言い、一先ず荷物を置きベッドに座る。その時だった。突然隣の部屋から怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
「もうイヤだ、俺はもう降りる。いくら命令だからって、こんな事やってられっかよ!」
「少し落ち着けよ。今引き返せば上官への反抗とみなされてどうなるか分かったもんじゃないぞ」
「知るか! 営倉なり前線なり飛ばすなら飛ばしてみやがれってんだよ。捜索開始からもう1月以上経ってんだ。こんな退屈な任務、こっちから願い下げだ」
(上官…命令…任務…軍人が何故こんなところに?)
私は壁に耳を付け、息を殺してその会話を聞く。

「仕様がないだろう。俺らの国の存亡は今、俺とお前にかかっているんだ。退屈に見えるだろうが・・・」
“俺らの国”。
私は思わず体を強ばらせた。それがどこかによっては、これは非常に危険な状況だろう。額にいやな汗が浮かんだ。
「退屈に『見える』んじゃない。退屈なんだ!何しろ、いるかいないかもわからんものを捕獲しろってんだからな。・・・全く、この俺様が直々出向く意味がさっぱりわからん!」勢いよく椅子を引く音が聞こえると、荒々しい足音とともに、彼は部屋を出ていった。
「全くあいつは・・・」
もう一人の男が、深いため息をつく。
「……しかしまぁ、その気持ちも分からんではないところが辛いところだな。『人狼』なんぞという伝説に縋ろうって辺りで、うちの事情も察せるだろうに」

(『人狼』だと――!?)
思わず大声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。最悪の予想の一つが当たってしまった事に、鼓動が早くなるのがありありと感じられる。
(落ち着け、まだ敵国の軍人と決まったわけではない。肝心なのはここからだ――)
それ以降も集中して聞き耳を立てていたが、男の独り言はそこで終わってしまったらしい。

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